経済学者が考える財政赤字の原因は「社会保障費」
「国の借金」が2023年3月末で1270兆円と過去最多を更新した。それにもかかわらず、「子育て支援」や「防衛費」の大幅積み増し、ガソリン代から電気代、小麦にいたる価格抑制のための助成金と、政府の歳出拡大はとどまるところを知らない。65兆円しか税収がないのに過去最大の114兆円も使う予算を組んでいる日本。債務残高は国内総生産の2倍を超え、主要先進国の中でも最悪だと言われて久しいが、一向に歯止めがかかる気配はない。
「財政赤字の原因は何だと思いますか」――。東京財団が5月にユニークなアンケート結果を公表した(※)。設問自体は一般的だが、これを「経済学者」と「国民全般」に分けて集計し、その意識の乖離に焦点を当てたのだ。
※東京財政政策研究所「経済学者及び国民全般を対象とした経済・財政についてのアンケート調査」
回答は選択肢から2つを選ぶ手法で、選択肢は「社会保障費」「公共事業」「高い公務員の人件費」「政治の無駄遣い」「その他」「わからない」の6つ。見事に経済学者と国民の意識の違いが表れた。
経済学者が考える赤字の原因は「社会保障費」が72%に及びトップになった。「政治の無駄遣い」41.1%、「公共事業」19.5%と続き「高い公務員の人件費」は1.8%だった。「その他」が14.5%もあるのは選択肢の設定が十分でなかったと見ることもできるが、それは置いておこう。
「負担増を強いられてきた」国民の思い
これに対しては国民の答えは、「政治の無駄遣い」が71.5%でトップ。これに経済学者が原因とはほとんど考えなかった「高い公務員の人件費」が40.4%で続いた。経済学者が最大の要因と指摘した「社会保障費」は17.5%、「公共事業」は12.5%だった。東京財団では「(国民は)無駄遣いの抑制や公務員の人件費削減などの歳出削減により、財政赤字問題には対応できると考えている可能性がある」と分析している。
なぜこんな意識の乖離が起きているのだろう。少子高齢化で社会保障費が増え続けていることを国民が知らないはずはない。単に誤解していると考えるのは早計だろう。それよりも政治家や官僚の姿勢に問題があると感じているに違いない。
というのも、国民の多くは「社会保障費」を賄うために負担増を強いられてきた、という思いがある。財務省が発表している国民負担率(国民所得に占める税と社会保障負担の割合)を見ると、「社会保障負担」は1970年代からほぼ一貫して上昇を続けている。1970年度に5.4%だった社会保障負担は2021年度19.3%にまで上昇した。2000年では13.0%だったので、この20年の上昇率も大きい。給与袋を開いて、厚生年金や健康保険料の引き去り額がどんどん大きくなっていることを実感してきたのだ。