「きっと大手メディアは報じないだろう」と高を括った

厳密に言うと、安倍は当該シーンを全面的に公開することに応じたわけではない。

あのビデオメッセージ自体はネット配信中継時のみ公開を許可し、アーカイブは残さないという取り決めがあって世に出たものだ。安倍が教団サイドの広告塔になることを了承したわけではなかった。

だが、このネット社会において映像が全世界に中継される以上、韓鶴子を礼賛する自分の発言が拡散することは、安倍も想定していたはずだ。

にもかかわらず、安倍は映像の公開を許可した。

恐らく、「公開したところでその影響は大したことはない。第2次安倍政権後の各メディアの動きを見ても、きっと大手メディアは報じないだろう。自分の選挙、自民党の選挙、自身の政治生命には何の影響もないはずだ」と高を括ったのだろう。

その点にこそ、私と山上は衝撃を受けたのだ。

大手メディアは完全に無視

実際、元首相であり、政界のキングメーカーとしても君臨しつつあった安倍の“読み”は的中した。新聞各紙やテレビ局など大手メディアはこのトピックを完全に無視する。

鈴木エイト『「山上徹也」とは何者だったのか』(講談社+α新書)

報じたのは『しんぶん赤旗』『週刊ポスト』『FRIDAY』『実話BUNKA超タブー』の4媒体のみだった。

安倍晋三という政治家のメディア分析は、その時点においては的確であり正鵠せいこくを射ていた。

だが、その安倍の「高の括り方」及び、全国弁連が郵送した公開抗議文を受け取り拒否するような「開き直り」こそ、山上徹也を“絶望”させ、トリガーを引かせることになった「最後の一線」だったと感じる。

そしてあの日を迎える。

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