人間の感情を忘れたような不気味な顔
射撃訓練が始まった。
射撃のコツは呼吸と、引き金を引く際の指の動きにあるという。息を止め、ゆっくり、自分でもわからないくらいにゆっくり引き金を引く。銃をブレないようにするのがポイントなのだ。
チュ氏の次の次の隊にIくんがいた。
チュ氏は射撃訓練を済ませたあと、射撃場の外に移動して同期の連中と談笑していた。Iくんの隊の順番が来た。チュ氏は何気なく、Iくんの隊の方を見た。
その時のIくんの表情を、チュ氏は忘れられないという。
人間の感情を忘れたような不気味な顔で、その背後には、ドス黒い怒りの炎が燃え上がっていた。なにかに取り憑かれたようなIくんの表情は、精神が崩壊した狂人のようだった、とチュ氏は語る。
「テメエらを殺す!」
「オプトゥリョ、チョン!(伏せ撃ち姿勢)」
教官の声と同時に、Iくんは地面に伏せ、姿が見えなくなった。チュ氏は再び同期と談笑をはじめた。
「準備ができた者から射撃! 実施!」
教官の声が聞こえた。続けて射撃音が轟くはず。そう思って、チュ氏は再び、射撃場の方に目をやった。
すると伏せ撃ち姿勢でいたはずのIくんが、なぜか立ち上がっていた。
――なにをやっているんだ、あいつは?
その場にいる誰もがそう思った。次の瞬間、Iくんが銃を構えた。
「テメエらを殺す!」