なぜ癒されるかの「わけ」まで言えると必要性が見えやすい
題材を変えて、もう少し考えてみましょう。
〈メッセージ〉で語るべき魅力を見いだす練習課題として、ぼくはよく自身が主宰する文章講座で、受講者につぎのような“お題”に取り組んでもらいます。
この場合なら、どうなるでしょうか。
※奈良公園は、古都・奈良に存在する公園。総面積は660ヘクタール(東京ディズニーランド13個分の広さ)ともいわれ、そのなかに東大寺や春日大社、興福寺といった歴史遺産や原始林が含まれるほか、鹿などの野生動物も生息し、古くから観光地として親しまれている。
〈メッセージ〉の見つけ方については本書で詳しく説明していますが、まだ〈よさ+わけ〉の説明をしていない段階で、こうした問題を投げかけると、いつも決まって最初に受講者から寄せられるのがつぎの答えです。
「癒しを与えてくれる」
奈良公園に行けば癒される。だから行きましょう――ということですが、事実としてはまちがいないかもしれません。奈良公園に行けば、たしかに多くの人は癒されるでしょう。
でも、事実だから、そういう価値があるから、といっても強く惹かれるわけではありません。
受け手の立場になって考えてみるとわかることですが、「癒されるから行きましょう」といわれても、「それなら行ってみよう」とは思いづらいはずです。先ほどもお話ししたように、〈わけ〉がわからなければ自分にとっての必要性が見えづらいからです。
奈良公園は「癒しを与えてくれる」場所ですが、それはあくまで〈よさ〉の話にすぎません。
これを魅力とするには、「なぜ癒されるのか」を説明できる〈わけ〉が必要です。
たとえば、東大寺や興福寺をはじめとした歴史ある施設が、いまなお公園の一角で変わらず運営されていることなどに注目して、
「奈良公園には1000年を超える歴史のゆっくりとした時間の流れがあって、あくせくした気持ちをゆるめられるから、癒される」
のようにいわれれば、魅力を感じてもらいやすくなります。
「そういえば、自分はこのところ、あくせくした気持ちでいるかもしれない。癒しが必要だ」
などと、自分に引きつけてイメージでき、必要性が見えやすくなるからです。
「○○だから、○○だ」で語れるか
あくまでぼくの場合の話ですが、本の企画を立てるときにも、魅力を伝えるという意味で、やはり〈よさ〉と〈わけ〉を強く意識します。
たとえば、以前、放送作家の小山薫堂さんやインテリアデザイナーの片山正通さん、クリエイティブディレクターの嶋浩一郎さんら9人の人気クリエイターが企画術について語った本をつくったときには、考案の段階でまず〈よさ〉として思い浮かべたのは、「いまの時代に本当に必要な企画のやり方を学ぶことができる」でした。
でも、それだけだと、受け手(想定していたのは、企業の企画職の人たち)にとっては、根拠がやや曖昧で、必要性を感じづらいところがあります。
そこであわせて据えたのが、「いまの世の中を動かしているしかけ人たちが手の内を見せてくれるから」という〈わけ〉でした。つまりは、
「いまの世の中を動かしているしかけ人たちが手の内を見せてくれるから、いまの時代に本当に必要な企画のやり方を学ぶことができる」
という〈メッセージ〉です。
そして、これをもとに『しかけ人たちの企画術』というタイトルを決めて本をつくったところ、まさに社会にインパクトを与えたいと思っている企画パーソンたちから、「バイブルにしています」といってもらえるような反響を得ることができました。
こんなふうに、〈よさ〉に〈わけ〉がともなって、はじめて魅力といえるのです。