伝わる文章を書くにはどうすればいいか。編集家の松永光弘さんは「知人から子どもの作文のアドバイスを求められたとき、『おじいさんやおばあさんに読んでもらうと思って書いてみる』ことをすすめている。『誰に向けて』がはっきりしなければ、『伝えるべきこと』は決まらない」という――。

※本稿は、松永光弘『伝え方 伝えたいことを、伝えてはいけない。』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

ものごとの意味や価値はひとつではない

ある商品の魅力を伝えようとするとき、何をしますか?

まず、その商品自体のよさを見つけようと、自分で使ってみたり情報を調べたりしようとする方が多いのではないでしょうか。

しかし、それとは違う考え方があります。

相手が変われば、魅力が変わる――。

ものごとの意味や価値は固定されたものではない、というとらえ方です。

〈メッセージ〉を導きだしていくうえで必要なものの考え方ですので、少し掘り下げて説明しましょう。

たとえば、「白いコピー用紙」は、一般的には「印刷やプリントをするためのもの」と、考えられることが多いようですが、それとはちがった解釈をすることもできます。

「メモ書きのための紙」ともいえるし、「工作の材料」ともいえる。もっとほかの意味や価値でとらえることもできます。

ちまたではこれを「解釈のちがい」として、「視点」という曖昧な言葉で片づけてしまうことが多いのですが、じつはここにはきちんとした原理があります。

それを目に見えるかたちにしたのが、次に載せた2枚の写真です。

写真1(「白いコピー用紙」と、「ペン」)と写真2(「白いコピー用紙」と、ハサミとのり」)
出典=『伝え方 伝えたいことを、伝えてはいけない。』(クロスメディア・パブリッシング)

1枚めの写真にうつっているのは、先ほどの話に出てきた「白いコピー用紙」と、「ペン」。

こうして見ると、おそらく「白いコピー用紙」は、「メモ書きのための紙」と見えてくるはずです。

では、もう1枚の写真は、どうでしょうか?

やはり「白いコピー用紙」と、今度はペンの代わりに「ハサミとのり」が置かれています。

こうなると「白いコピー用紙」は「工作の材料」に見えてくるでしょう。

うつっている「白いコピー用紙」は、1枚めの写真も2枚めの写真もまったく同じものです。場所を動かしてもいなければ、照明の当て方を変えてもいません。

でも、となりに並べて置くものを変えただけで、意味や価値がちがってしまいます。