商品のメリットや価値を、悩みの指摘を通じて示唆

いまは専門チャンネルもあるくらいですから、通販番組を見たことがない人はもはやいないでしょう。ここでなぞった番組の内訳も、見慣れたものといってもいいくらいかもしれません。

ただ、伝えるコミュニケーションとして見たときに、通販番組は本当によく考えられていると感心させられます。

なかでも注目したいのは、商品の「メリットや価値=〈よさ〉」だけでなく、その商品がなぜ生活者の悩みや課題を解決できるのかという「理由や道理=〈わけ〉」を重視しているところです。

いまの「高性能の低反発マットレス」でいえば、つくり手目線で「伝えたいこと」は、「低反発性のおかげで、体圧が分散される」という商品の機能的効果です。

でも、それは受け手(顧客)にとって「伝えられたいこと」ではありません。しょせんは「他人ごと」です。

そこのところにしっかりと配慮して、番組では「朝までぐっすり眠るためのもの」という受け手目線で再解釈した商品のメリットや価値、つまりは〈よさ〉を、悩みの指摘を通じて示唆しつつ訴えかけます。

けっしてつくり手の「伝えたいこと」を垂れ流したりはせず、抜かりなく「伝えられたいこと」へと変換して伝えていく。

商品が変わっても、このスタンスはほぼ一貫しています。おそらく長年の経験のなかでつちかわれた話法にちがいないのですが、コミュニケーションの構造に照らしても、まさに教科書どおりです。

ただ、通販番組は、商品の〈よさ〉だけを伝えようとはしません。

受け手目線で「朝までぐっすり眠るためのもの」という〈よさ〉を指摘したあとに、専門家の解説を引用するなどして、それが解決される理由や道理、つまりは〈わけ〉を明確に説明しています。

魅力は〈よさ+わけ〉で語られる

なぜでしょうか。

そうしなければ、「自分にとっての必要性」が受け手にはっきりと見えづらいからです。

商品について伝える、アピールするとなると、「この商品をつかえば、こんないいことがある」といったように、〈よさ〉を示せば、必要性がわかってもらえると思いがちです。

でも、それでは商品自体の特性は理解できても、「まさに自分のことなんだ」と引きつけて感じるところまではたどり着きにくい。

〈わけ〉がわからなければ、課題の存在とそれが解決されるまでを具体的にイメージしづらく、自分にとっての必要性を感じにくいからです。

そこをわきまえたうえで通販番組では、人びとの悩みをいい当てて〈よさ〉を示唆するだけでなく、原因を分析して、悩みが解決できる〈わけ〉をきちんと語っています。

だからこそ、気持ちを引きつけられるし、納得しやすくなるのです。

(そして、だからこそ、番組を見る前は必要だと思わなかったものを買ってしまう……)。

ここに「魅力」のあるべき姿を読み取ることができます。

出典=『伝え方 伝えたいことを、伝えてはいけない。』(クロスメディア・パブリッシング)

「高性能の低反発マットレスの魅力はなにか」と訊かれたら、多くの人は「朝までぐっすり眠るためのもの」のように〈よさ〉の部分を語りがちです。

しかし、〈よさ〉だけでは、必要性が見えづらく、人の気持ちを引きつけるところまではたどり着きづらい。

〈よさ〉が実現される〈わけ〉までを含めてはじめて、必要性を感じることができます。

「高性能の低反発マットレス」であれば、「背骨のカーブを意識して体圧のバランスを調整し、身体を楽な状態に保つから、朝までぐっすり眠ることができる」というところまで指摘してはじめて魅力といえる。

同じ構造は広告にも見てとれます。魅力がしっかりと表現された広告キャンペーンの多くは、〈よさ〉と〈わけ〉がきちんと意識されています。

たとえば、1997年にアップルが展開した「Think different.」もそうです。スローガンは「Think different.」つまりは「ものの見方を変えよう」ですが、その言葉のもとで、広告にはアインシュタインやピカソ、ガンジーといった「世界を変えた人たち」がえがかれています。

要するに「世界を変えることができるコンピュータ」ではなく、「ものの見方を変えて(=わけ)、世界を変えることができる(=よさ)コンピュータ」。こういう語り方をするからこそ、説得力が生まれます。

こんなふうに、魅力は〈よさ+わけ〉の組み合わせで語られるべきものなのです。そして、魅力を語るべき〈メッセージ〉もまた、〈よさ+わけ〉で表現されることになります。