国務省が「アフガニスタンと同程度に危険」と警告
冒頭で述べたマタモロスは米国務省から「アフガニスタンと同程度に危険な場所」とされ、「渡航中止勧告」が出されている。そしてティファナには無許可で違法に活動している美容外科医があふれている。いくらお金を節約できるからといっても、このような場所で手術を受けるのは賢い選択とは言えない。
先述したメキシコシティなどで手術を受ければリスクは抑えられるにもかかわらず、なぜ国境沿いの危険な地域に向かう人が減らないのか。
その理由として考えられるのは国境沿いなら車で簡単に行くことができ、日帰りは無理としても数日で帰ってこられるので滞在費を節約できる。一方、メキシコ中央部に位置するメキシコシティなどへ行くには通常飛行機を使う。整形手術後に飛行機に乗ると、気圧の影響で腫れが出やすくなるため、手術によっては3日~1週間ぐらい渡航を控えるように勧められ、滞在費がかさむことになる。
このような理由から国境都市をめざす人が減らないのではないかと思われるが、もう一つ重要な要素として米国人の美容整形への飽くなき欲求がある。
どんなに危険でも米国人は整形をやめない
たとえば、筆者が20年前に米国で取材した人のなかに脂肪吸引の手術で死亡した31歳の女性がいた。彼女は均整の取れた体をしていて、誰が見ても太っているようには見えなかったが、本人は太っていると思っていたという。そして手術を受け、右足のふくらはぎにできた血液のかたまりが肺に入り込んだことによる合併症で亡くなった。
脂肪吸引は整形手術のなかでも特に死亡事故が起こりやすく、血液凝固による合併症や脂肪を吸い込む医療器具による血管・内臓の損傷などが原因で亡くなる割合はおよそ5000件に1件というデータも出ている。
このようなリスクがあるにもかかわらず、米国人は整形手術をいとわない。太っていなくとも太っていると思い込んで脂肪吸引を受ける人や、整えてももっと整えたいとフェイスリフトや鼻整形などを繰り返す人は少なくない。
米国人の整形への飽くなき欲求は20年前も今もまったく変わっていないようだ。どんなに危険でも、メキシコの国境都市で手術を受ける人は今後も減らないだろう。