企業や施設、社会への貢献という全体性がポイントに

新津氏の事例がこれにあてはまる。新津氏が清掃を工夫する理由に、自己の成長の喜びがあった。同時に空港を自分の家のように考え、赤ちゃんまで含めてお客様に快適に過ごしてもらうことを目的にしていた。このように「自己の成長と専門性の追求」と「全体性」が結びつくときこそ、ジョブ・クラフティングがもっとも生じやすくなるのではないだろうか。

ドラッカーの評価は低いが、石切りとしての最高の仕事を目指す2人目の石工は、意義ある存在ではないだろうか。特に日本の組織は、個人よりも集団の調和が強調される場合がある。そのため、筆者は2人目の石工の価値を軽んじてはならないと考える。

大手メーカーのシニア社員には転職してやりたいことがなかった

実はこの点にこそ、シニアの働き方思考法において乗り越えるべき大きな課題があると筆者は考える。シニアのキャリアに詳しい前川孝雄の著書に次のようなエピソードがある。

業績不振に陥った大手メーカーのシニア社員が、転職相談に来た。転職相談が目的であるから、当然、どんなことをやりたいか、という質問をされる。しかしそのシニア社員は、仕事とはやるべき義務であり、会社から与えられるものであり、やりたいことと転職相談に関係はないはずだ、と反論したそうである。

転職相談に来ているのに、やりたいことなど不要だと答えるシニア社員の姿には違和感を覚えてしまう。実際問題、それでは転職先を探す手がかりを得ることは難しい。しかし、このシニア社員の考え方を一概に否定することもできない。

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