与えられた仕事をこなし期待に応えることが美徳だった

というのも、こうした考え方が生まれたのは、それまでシニア社員が責任感を持ち、まじめに仕事をしてきたからであろうからだ。勤務していた大手メーカーでは、会社がどのような仕事を与えようとも、それに反論することなく責任感を持って業務遂行することが求められたのだろう。そして、それこそが美徳であったのだろう。このシニア社員の姿勢は、真摯しんしに会社の期待に応えようとしたものだといえる。

この姿勢は、とにかく人生に努力を傾注しようとするセカンドエイジに対応したものだろう。しかしだからこそ、サードエイジを充実して過ごすためには、「やりたいこと=意義ある目的=情熱・動機・強み」を大事にする姿勢に転換できることが望ましい。ところが、今までは「やるべきこと」こそ仕事の美徳であると信じてきたのだから、その意識転換は簡単ではないだろう。

「今までやれと言われたことをまじめにやってきただけ」

石山恒貴『定年前と定年後の働き方 サードエイジを生きる思考』(光文社新書)
石山恒貴『定年前と定年後の働き方 サードエイジを生きる思考』(光文社新書)

筆者は企業で、シニア社員を対象に、ジョブ・クラフティングを実践するため、それぞれの「情熱・動機・強み」を洗い出すワークをやることがある。その際、企業側の事務局が、このワークに懐疑的なことがある。実際、筆者は企業側の事務局から「うちの社員に、仕事上の情熱を聞いても、何も答えられないと思いますよ」と言われたことがある。筆者は驚き「なぜそう思うのですか」と尋ねた。その答えは、「だって、今まで、皆、やれと言われたことをまじめにやってきたのだから」というものだった。

どの企業でも、たしかにワークの最初では、参加者たちに戸惑いはある。しかしグループワークなどを通じ、お互いに質問などして考えを深めていくと、ほとんどの参加者が「情熱・動機・強み」を楽しそうに洗い出していけることが実態だ。「やるべきこと」を仕事の美徳だと考えていた人たちにとっても、自分の「情熱・動機・強み」を考えることは楽しいことなのではないだろうか。だからこそ、レンガ職人の話が英語圏でも日本でも、脈々と語り継がれるのではないだろうか。

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