RingとAlexaをめぐる問題には共通項がある。それは、AmazonおよびRing社が、AI開発を急ぐあまり組織的にプライバシーを軽視してしまった点だ。
Alexaをめぐる問題ではデータを消去しないことで、AIの学習材料を確保しようとした可能性がある。FTCは5月31日付の報道発表資料で、子供の会話パターンは大人と異なるため、AmazonにとってAI開発上の価値あるデータだったと指摘している。
Ringをめぐる問題でも同様に、AI重視の姿勢が背景にある。インターセプトは「Ring社がウクライナのチームにこのような(あらゆるユーザーの録画データを閲覧できる)アクセスを許可したのは、自社の顔認識・物体認識ソフトの弱さが一因だった」と指摘する。
ユーザーから収集した映像を社内の人間が視聴し、映像にアノテーションと呼ばれる分類作業を施すことで、AIの認識精度を向上したかったという。記事は「人々がキスをしている、銃を撃っている、窃盗を働いている」などの映像を見せ合い、分類結果を相互に確認し合っていたと報じている。
カメラの向こう側にリスクが潜んでいる
自宅内にカメラを設置してもらうという製品の特性上、同社にとってユーザーから信頼を得ることが最優先事項であったはずだ。従業員らによる「覗き見」は利用者への裏切り行為以外の何物でもない。FTCの指摘からは、プライバシーに関するモラルの全社的な欠落すら浮かび上がる。
RingとAlexaをめぐる問題は、AI学習への懸念を提起するものでもある。
ChatGPTやDALL-Eなどのいわゆる「生成系AI」は、クリエイティブな文章や絵画を手軽に出力できる反面、学習データとして既存の著作物が無断で利用されていることが問題化している。これに対し、本件はAI学習とプライバシーという別の問題を浮き彫りにした。
私生活を24時間録画したカメラ映像が他人に無断で見られ、さらに行動の一つひとつがAIの学習素材になる――。カメラの向こう側で行われていたことを、利用者は予想だにしないだろう。AIのためにわれわれのプライバシーが犠牲になることがあってはならない。
ホームセキュリティカメラは、安価なものでは5000円足らずで購入できるものもあり、比較的手軽に導入が可能だ。その一方で、映像が自宅外へ出ていくリスクがあることは忘れてはならない。
Amazonはセキュリティに関する体制を改善したとしているが、Ring製品に限らずこうした製品にはプライバシーの問題がつきまとうということを改めて意識し、利用の際には設置場所を慎重に検討したい。