4年間で108人死亡、毎日誰かが用水路に転落

2020年3月に岡山県がまとめた「用水路等転落事故対策ガイドライン」によれば、2013~2016年の間に用水路の転落が原因で救急車が出動した件数は1562件。年平均では391件で、一日に1回はどこかで用水路に人が落ちて、救急車によって運ばれていることになる。

水深にかかわらず道路から高さのあり、コンクリートで固められた用水路への転落は危険だ。「ガイドライン」によれば事故で「中等症以上(死亡・重症・中等症)」の怪我を負った人は全体の47%にあたる736人で、そのうち108人が死亡したとされている。全体の7%というかなり高い死亡率だ。

出典=「用水路等転落事故対策ガイドライン」岡山県(令和2年3月)

岡山県人でなければ、そこまで用水路に転落する人が多いことは、なかなかピンと来ないだろう。転落する理由はごく単純で柵がないからだ。

岡山県南では、道路面と同じ高さで道路に沿うように用水路が走っていることが極めて多い。街灯もなく日暮時になれば境目がわからずに転落してしまいそうだ。日中でも自転車の操作を誤れば、そのまま用水路に突っ込んでしまうのである。

「ガイドライン」によれば、事故に遭った人は徒歩55%、自転車40%となっている。柵がないために、転落してしまう人が多いことが窺える。

干拓地が続々と宅地になった

ただ、ここでちょっと疑問が生じる。用水路の歴史は干拓の歴史でもある。ならば、遠い昔から用水路に落ちている人は一定数いたはずである。それがなぜ21世紀の現在になって注目されるようになったのか。

用水路を管轄する岡山市役所道路港湾管理課の答えはこうだ。

「以前は、用水路に落ちた程度なら自分で這い上がっている人が多かったんです。しかし、人口が増え、高齢者も増加したことで、転落した際に救急車を呼ばなくてはならないような怪我を負ってしまう人が増えているのだと思います」

用水路が多い岡山市の岡南地区は、高度成長期以降に宅地化が進行した干拓地だ。筆者の親戚もこの地区に住んでいる者がいるが、70歳を越えた老母に尋ねると「あの家が引っ越した頃にはヨシの原しかなかった」という。