推進派にも保守派にも気をつかった「折衷案」

自民党の合同部会での議論では、反対意見の方が多かったのに、強引に部会長一任とされ、萩生田政調会長も手続きに瑕疵かしがないと追認したので、萩生田氏へも批判も高まった。

おりしも、萩生田氏には自民党の東京都連会長として公明党と決裂したことへの批判に加えて、旧統一教会問題もくすぶっていて、八王子の選挙区で楽観できない状況にある。さらに女子トイレなどが否定されるのではないかと法案に反対しているグループが地元でビラマキをして萩生田氏を批判するという一幕もあった。そこで、萩生田氏は馬場伸幸代表に、維新案に沿って修正した案を共同提案したいと申し入れたのだ。

最終案では、立憲・共産・社民案(超党派合意案)の「性自認」、自民・公明案の「性同一性」の原語である維新・国民案の「ジェンダーアイデンティティ」となった。これは、「性自認」は急進的な自治体や運動家が使ってきたので彼らの主張に引っ張られる可能性があったし、「性同一性」という表現は推進派が嫌ったためで、「ジェンダーアイデンティティ」は、あまり使われてない表現なので良くも悪くも白地だ。

急進派に振り回される事態は回避できる

最終案では、「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意」し、「政府は、その運用に必要な指針を策定する」とされた。保守派は生物学的には男性なのに女子トイレを使いたいという人が出るから法律化は阻止すべきと言うが、しょせん不心得者の根絶など法律のあるなしにかかわらずできない。

ただ、生物学的女性が不安に思わないような指針を政府や自治体が作り、管理者が不当な要求を認めてはいけないという原則がはっきりした。

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BBCの報道によると、英国では、教師が生徒をLGBTだと決めつけて、親と相談せずにLGBTとして生きるように誘導してトラブルになるケースが問題になっているそうだ。今回の最終案では、学校での理解増進に、「保護者の理解と協力を得て」とされたので、急進的な教育現場での行き過ぎは抑止できる。

自民党の古屋氏や新藤氏は、「自治体による行き過ぎた条例を制限する抑止力が働く」ことを強調している。これを受けて推進派は、一部の先進自治体では取り組みが後退すると心配するが、自治体がバラバラの対応をしてきた問題に国が乗り出したときには起こり得ることであり、国内全体の取り組みが前進することを考えれば、法案自体を反対する理由にはならないのではないか。