成立した「LGBT理解増進法案」が16日に成立したが、自民保守派と推進派の双方から批判されている。評論家の八幡和郞さんは「日本でも多様性を認めていくことは外交的にも経済的にも必要だ。法案には問題が多いが、適切な修正がされたもので、新法を批判するより実施段階で工夫して柔軟に対処することのほうが大事だ」という――。
レインボーカラーの背景に、ミニチュアの日章旗
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保守派と野党の双方が批判するLGBT法案

「LGBT理解増進法」は、正式名称を「性的指向および性同一性に関する国民の理解増進に関する法律」という。

2018年から自民党で検討され、2021年には超党派合意案も作成されたが、保守派の反対でたなざらしになっていた。今国会では超党派合意案そのままの立憲・共産・社民案、保守派に配慮した自公案、一般女性への配慮などを加えた維新・国民民主案が別々に提案された。

だが最終的には、自公両党が維新案にほぼ丸乗りした4党共同案(最終案)が、自公と維新、国民民主などの賛成多数で6月13日に衆議院を通過した。これに対して野党や当事者団体から批判の声が上がり、一部の自民議員が退席や欠席をした。

私は推進派と反対派のいずれにも違和感があり、どちらに賛成という立場でないが、法律の運用はこの種の問題にありがちな、過激な運動家などに振り回され、利権化されることはあってはならない。そのためにも、この問題の歴史的背景と経緯を押さえたうえで、利権化に歯止めをかけることが重要だと考える。

欧米の潮流は多様性を認める方向へ

最近、『民族と国家の5000年史 文明の盛衰と戦略的思考がわかる』(扶桑社)という本を出したが、そこで地球環境、LGBT、チャットGPTなど最先端の問題も世界史的な視野で論じた。

生命科学の進歩によって、親子とか男女とかの関係で従来の常識では律しきれない問題が増えているし、LGBTの人たちにも市民権を与えようという方向が世界的にある。

私は迅速に多様性を認める方向で取り組むべきだと思うが、一方で、男女が結婚して子供を産み育てることが、基本的なあり方だということまで否定するのには、慎重であるべきだと考える。人類、そしてその社会とほかとを区別するものがなくなってしまうのでないかと危惧するからだ。