残った記録から被害データを割り出した
――でも全壊率を明らかにするのは難しいと言われていたわけですよね。
やはりそこが一番の問題点でした。
本来、全壊率は対象となる市区町村で全壊建物数を全建物数で割れば分かります。しかし通常は全建物数は把握されていません。代替として世帯数を分母に、一世帯一住居と仮定し、全壊住家数を分子にすることが多い。
ただ東京は大火災の被害もありましたから、全焼したのが倒壊前だったのか、あとだったのかの判断も難しい。
さらに丁寧にデータを見ていくと都市部では長屋などの1軒の集合住宅に複数の世帯が入居していたり、逆に地方では納屋や外便所などの非住居が全壊数として数えられたりしていた資料もありました。
そうしたデータをひとつひとつ検証し、紐解いていき、被災した地域全体で統一した被害データを作成しました。住宅の全壊率から各地の推定震度を導き出しました。
ちなみに、震度7は神奈川県と千葉県南部のかなりの広さの地域に分布しますが、東京市(現在の東京都)では本所区(墨田区南部)が全壊率22%で震度6強、深川区(江東区の北西部)、神田区(千代田区の一部)、浅草区(台東区の東部)が震度6弱……。
余震についても、岐阜測候所の記録をはじめ各地の記録や体験談なども含めた被害状況などを分析した結果、M7以上の余震が6度も起きていたことが判明しました。こうした事実が明らかになったのは2003年のことでした。
「全壊」の認定基準が変わってしまった
――関東大震災から80年が過ぎるまで各地の震度も明らかになっていなかったんですね。
そうなりますね。
関東大震災ではデータの重複などはあったものの、「全壊」「半壊」「一部損壊」の定義がいまよりもずっとしっかりしていました。
昔の全壊は非常に明快で家がペシャンコになっている状態。1階屋は屋根が、2階屋では軒が、地面についていること。かつては全壊10軒につき、犠牲者が1人出ると言われていました。関東大震災だけではなく、かつての地震でも奇妙に一致しています。
でも、いまは家屋被害の認定基準が変わったでしょう。「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」「一部損壊」の6段階になった。加えて地震や判定する自治体によって、認定にばらつきがある。そうなると被害統計も客観的なデータとして扱えない。