人は「ある数字」に強く影響を受ける

ストックホルム商科大学オスカー・バーグマンの実験では、被験者にあるワインをいくらで買うかを聞くという実験をしました。その際、「このワインをXドルで買いますか?」と聞くのですが、Xにはその被験者の社会保障番号(日本のマイナンバーのようなもの)の下二桁を入れた上で質問します。

相良奈美香『行動経済学が最強の学問である』(SBクリエイティブ)

つまり、社会保障番号の下二桁が20の人なら「このワインを20ドルで買いますか?」と聞き、下二桁が95の人なら「このワインを95ドルで買いますか?」と聞きます。当然、下二桁の数字が大きい人ほど高額になりますから、「買いません」という回答になります。

その後この実験では、「買いません」と回答した人に「では、いくらなら買いますか?」と質問をします。「ワインに95ドルも出したくない」と答えた人にこの質問をすると、「70ドルなら」などと答えます。

この調査の結果、下二桁の数字が大きい人ほど、最終的に買うと答えた価格も高額な数字を挙げることがわかりました。単に社会保障番号という、ワインとは全く関係のないランダムな数字であるにもかかわらず、人は最初に提示された数字に強く影響を受けるのです。

ワインは価格帯の幅が広く、価値がわかりにくいものなので行動経済学の研究によく用いられます。この調査では、同じく価格がわかりにくいアートについて、社会保障番号を基準に「いくらなら買うか?」と尋ねていますが、同じ結果になっています。

逆に言えば、精通している商品に対しては、アンカリングは起きません。毎日買うコーヒーの値段は、「コンビニならいくら、スタバならいくら」と明確に覚えているので、アンカリング効果は期待できないということです。

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