「医学の帝国」ができるメカニズム

なぜか。それは医師免許の存在が大きいからです。医師免許を持った研究者は、たとえ基礎研究ばかりやっていて、患者さんを診療したことがないとしても、医学部で学び、国家資格を得たことに強いアイデンティティを持ちます。

そして医学には権力とお金が集まる。政治的に力を持つのです。例えば医学部を持つ総合大学の学長の多くが医学部出身であることを見ればよくわかります。附属病院の収入と職員の数というパワーで、総合大学のトップに君臨してしまいます。

同族意識、権力と金、政治力。これこそが医学部及び医学部出身者を特権階級たらしめ、他の学部や医師免許を持たない研究者に高圧的に振る舞う「医学の帝国」ができるメカニズムです。

だから医師免許がないnon-MDを、「なんだかんだ言っても患者さんのこと知らないよね」「病気のこと知らないよね」と見下したりします。

医師の教授のもとで働く非医師の研究者たちが、あたかも奴隷のように扱われ、成果を強要され、雇い止めされていく姿を何度も見ました。

こうした中、学問としても医学が優位に立ち、たとえばショウジョウバエを使った研究を「なんの役に立つのか」と見下したり、ましてや植物の研究など存在価値がないと思ってしまいます。

大学の諸問題の原因は「医学部化」ではないか

まだ生命科学という学問のうちならいいのです。そうした意識のまま総合大学の学長になれば、人文社会科学系などの学問にも医学部と同様の評価軸を持ち込み、役に立たないならなくしてしまえ、と高圧的に出ることもあります。

榎木英介『フリーランス病理医はつらいよ』(ワニブックスPLUS新書)

研究不正、製薬メーカーとの癒着、学長の大学私物化……。いろいろな大学で起こるこうした問題は、医学部内部の問題が全学部に発展する、いわば「医学部化」によって起こっているのではないでしょうか。

私は2つの文化、理学部と医学部を「越境」したので、こうしたことがよくわかるのですが、ずっと医学部にいる人たちにはわからないかもしれません。

こうした状況をどう変えればいいのでしょうか。正直いって答えが見つかりません。私はこうした医学の帝国から追い出され、「辺境」で細々と生き抜く人間です。医学界を変える力など持ちようがありません。

ただ、声を出すことを諦めてはいけないと思っています。たとえ1ミリでも前へ。行動し続けようと思っています。

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