病理医とはどんな仕事なのか。フリーランス病理医の榎木英介さんは「他の科の医師との最大の違いは、解剖だ。患者の病気を直接治すことはできないが、病理解剖で死因を特定したり治療の効果を調べたりすることで、未来の患者さんを救うことができる」という――。
※本稿は、榎木英介『フリーランス病理医はつらいよ』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。
治療方針を左右する「医師の医師」
私たち病理医は、普段は病院の奥のほうにある、一般には「病理部」などと呼ばれる部署で仕事をしています。
したがって、患者さんと直接お会いすることはほとんどありませんし、一般に知られる機会も少なく、それゆえ知名度は低いのですが、医療現場の中ではとても重要な役割を果たしています。
詳細は本書の中で詳しく述べていきますが、概念だけここで簡単にご説明しましょう。
一般に、患者さんと直接対面して治療する医師を「臨床医」といい、その臨床医の治療方針を決める根源となるのが、病理医の診断です。
患者さんの病気が何であるのか、がんであればどんながんなのか、どれぐらい転移しているのか、どのような抗がん剤が効くのか、放射線治療は適正なのか、といったことを病理医は診断します。少し難しいですが「疾患の確定診断」をするともいいます。
臨床医はこれをもとに治療方針を決定するのです。病理医が「Doctor’s Doctor(医師の医師)」と呼ばれるゆえんです。
全国に約2120人しかいない少数派
これに加え、「病理解剖」というのも病理医にとって重要な仕事です。病理解剖では、亡くなった患者さんを解剖し、なぜ亡くなったのか、病気がどこまで広がっていたのか、他に併発していた病はなかったかなどを調べます。
このように、正確な診断と正しい治療のために重要な任務を担っているのが病理医です。
その病理医がどれくらいいるのかというと、全国で約2120人ほどです(病理診断科を主たる診療科としている医師の数。令和2年厚生労働省調査)。一般に数が足りていないといわれている小児科医でも、その数は1万7000人ですから、いかに病理医の数が少ないかがおわかりいただけるでしょう。