命という大きな流れを受け渡す小さな役割

自分が死んでも子供を助ける親。社会のために危険に飛び込む職業の人たち。いずれも自分が死んだ後のことを考えるからできることです。

榎木英介『フリーランス病理医はつらいよ』(ワニブックスPLUS新書)
榎木英介『フリーランス病理医はつらいよ』(ワニブックスPLUS新書)

解剖という行為自体が、まさに死んだ後の「種の永続性」を象徴する行為ではないかと、大げさといわれるかもしれませんが、私は思っているのです。命という大きな流れを受け渡す小さな役割、それが病理医に与えられた使命だと思うのです。

だからこそ、どうせ死んだら無になってしまうのだから、どんな悪事だって働いていい、という虚無的な考えに陥ったりしてはいけません。悪事とは自分一代で資源を消費し尽くしてしまうことに他ならないからです。

大学の常勤職をあっさり捨て去り、安定した公務員を辞めて不安定なフリーランスに飛び込むことができたのも、地位や名誉にこだわるのには意味がないという、病理解剖から学んだことが影響を与えているに違いありません。

「どんな仕事に就いても全力を尽くす」と心の底から思えているのも、病理解剖から学んだことが生かされていると自分では思っています。

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