お腹いっぱいになりそうなほど処方されている

高齢者への過剰投薬が社会問題となっている。降圧薬、血糖降下薬やコレステロールの薬、利尿剤、骨粗鬆症の治療薬などなど、薬だけで「お腹いっぱい」になってしまうのではないかと思うくらいの処方をされている人も珍しくない。高齢者医療・在宅医療に主として携っている私にとっても、日夜頭を悩ませている問題であることは間違いない。

職場の接写でさまざまな錠剤のパックを持つ医師セラピスト心臓専門医
写真=iStock.com/Nadzeya Haroshka
※写真はイメージです

人は加齢とともに老化し、身体のさまざまな機能が低下する。それによって生活への支障、さらには生命を維持することが徐々に困難となって、最終的には死に至る。これは生物である以上、誰一人避けては通ることのできない宿命だ。

ただその経過の中で、たとえ「不老長寿」は不可能といえども、最期のときまで少しでも生活の質を保ちつつありたい、少しでも苦しまない状態で生命を維持したいと考える人は決して少なくないであろう。

そしてわれわれ医療者も、その希望に可能なかぎり寄り添って医療を提供しているつもりなのだが、その希望を、ややもするとわれわれの医療が邪魔してしまっているのではなかろうか、「良かれ」と思って行っている医療が、かえって患者さんの生活の質を損なってしまっているのではなかろうかと、私自身、自問自答する日々であるといっても言い過ぎではない。

そうした状況の中で生じてきた現象のひとつが、冒頭に掲げた「高齢者に対する過剰投薬」ではなかろうかと私は考えている。

「メタボ健診」の普及で薬を飲む機会は増えたが…

過剰投薬が生まれた背景には、「メタボ健診」が広く普及したことがある。血圧、血糖値、コレステロール値などを気にする人が増え、職場ではこれらに異常が見られた人には受診と治療が勧奨される。そしてこれらの異常値を記したレポートを携えた人にたいして、医療機関では必要に応じて追加の精密検査や指導さらには投薬が行われ、以後、定期的な通院加療すなわち投薬治療がはじまっていくケースは確かに多い。

もちろんこれらには意義がある。個々の患者さんの病態、生活背景を考慮した上で、指導や治療へとつなげていって、将来起こりうる有害事象、リスクをいかに減らすかを、医療者の独断でなく患者さんとの相談で決定していくのが常道であるから、異常値が出た人すべてに片っ端から画一的な投薬がされるわけでもない。

しかし、実際に薬が多すぎると感じている人がいるからか、巷の週刊誌などには「医者にもらった薬は危険、飲んではいけない」であるとか「あなたに処方されている薬は、医者は絶対に飲まない」などといった、センセーショナルな見出しで現代の医療やエビデンスを一方的に否定する記事があふれており、これらの影響で混乱と不安に陥ってしまっている患者さんに外来で相談されることも少なくない。