なぜ処方薬はどんどん増えてしまうのか?
なかには「製薬会社と医者がグルになって過剰投薬をおこない暴利を貪っている」といった記事さえあるが、私が医師になりたての30年ほど前ならいざ知らず、今のご時世、製薬会社の医師への過剰接待など、もはや「都市伝説」の類いだ。
このような記事は、読者すなわち患者さんの医師への不信感を面白半分に煽るものに他ならず、「ためになる情報」どころか読者に不安と疑念を植えつけ、医師ー患者関係をいたずらに破壊し、むしろ読者を不幸に導くものであるとさえ言えよう。
そもそもこのような記事は、個々の患者さんの病態や生活背景を一切無視して書かれたものゆえに、当然ながらすべての人に当てはまらないにもかかわらず、その表現や論理展開はあまりにも断定的かつ短絡的、画一的である。
だからこそ一般読者からすれば「わかりやすい」と思われてしまうのだろうし、それゆえ「売れる」のかもしれないが、日々臨床現場で実際にこれらの記事の影響で困惑している患者さんと応対している身からすれば、非常に由々しき記事であると思わざるをえない。
では過剰投薬が起きる理由は何だろうか。過剰投薬になっている人のお薬手帳を見てみると、腰痛や膝痛といった痛みにたいする鎮痛剤、不眠や不安にたいする睡眠薬や安定剤が複数種類出ていることがある。そして鎮痛剤は痛いときに飲むのではなく、朝昼晩と定時で処方されていたり、睡眠薬や安定剤も毎日決まって眠る前に飲むよう促処方されたりしているのである。
そのくせ、飲まないリスクについては書かれていない
「少しでも苦しまない状態」を維持するために医療者が「良かれ」と思って処方したものであることは間違いないが、これらは主治医が変わったあともそのまま漫然と引き継がれることも少なくない。痛みや不眠というつらい症状にたいする薬剤を、新しく引き継いだ医師がカットするのはなかなか難しい。患者さんの中には薬剤の作用にたいする依存ではなく、薬を飲んでいるという安心感に依存している人も少なくないからだ。
こういう方の減薬はなかなか困難だが、薬剤の作用と副作用・デメリットを十分に説明した上で、定時でなく必要なときに服用するやり方に変えることを提案してみると、案外減薬に成功することも少なくない。また意思疎通が困難な方に漫然と処方されているケースでは、試しにプラセボ(偽薬)を使ってみることで減薬可能と判明することもある。
もちろん薬など飲まずに何事も起こらなければ、それに越したことはない。しかしこれらの記事には治療しないことが引き起こすデメリットについては、まったくといって良いほど書かれていない。そのような記事に影響されて混乱してしまっている患者さんに相談された場合、私は、現在内服中の薬の意味や意義、メリットとデメリットを十分に説明し、どのようになれば減薬できるか、逆に薬を止めるとどのようなリスクが生じうるかは、私の拙い知識の範囲内で極力伝えるようにしている。