課長1300人を対象にした職種横断の対話会

もちろん、一連の人事制度改革だけで成長と変化に挑む社員が増えるわけではない。人事制度はあくまでもきっかけやツールにすぎない。山田常務執行役員は「最も重要なことは、役員を含む部・課長層が目指すべき高い目標を設定し、部下の行動をどのように変えていくかを明確にすることだ」と指摘する。

そして「成長と変化に挑む集団」に変革する起爆剤として推進しているのが「対話会」と呼ぶ全社員の意識改革を促す企業風土改革運動だ。11年11月からスタートし、今年7月にかけて実施した。そのプロセスはSTEP1から4に分かれ、スタートは本部長の役員からマネジメントに向けて「なぜ我々は変われないのか、変わるために何をすべきか」について意見を表明。続くSTEP1では200人の部門長同士が同様のテーマで議論し、議論の結果を職場に持ち帰り、今度は部門長と課長クラスとの間で議論するSTEP2。さらにSTEP3では課長と職場のメンバーの間で議論が実施された。

「部門長同士の議論は営業、技術、管理部門などの長をミックスした30人ずつのグループに分けて1日かけて議論しました。我々はどういう方向を目指すのか、そのための行動はどうあるべきかについて徹底的に議論し、それを受けて部・課はどういう行動をしていくのかについて最終的に職場のメンバー同士で対話を行いました。その議論の結果を集約して行動評価の項目になっています」(山田常務執行役員)

そして今年6月からは課長クラス約1300人を対象にした職種横断の対話会を実施している。メンバーは一回につき30人。まる1日の缶詰め状態で議論する。テーマは新たに導入した評価制度の理解とマネジャーとして行動をどのように変えていくべきかの2つだ。新たな行動評価は従来の定量的評価と違うだけに、上長の評価能力が問われる。参加者からはとまどいの声も上がったという。

「数値で評価するのと違って具体的基準がないわけです。目指す方向を自分で定めて、そのための重要な行動とは何かを部下に指し示し、部下の行動をちゃんと見て指導する。そのためのツールとして使いこなしてくださいと言うと『えーっ』という感じで最初はものすごく抵抗がありました。しかし、評価制度の本質が、部下に対する接し方、仕事の与え方を根本的に考え直すことにあることを理解し、自分たちが変わらないとダメだというふうに変わっていきました」(山田常務執行役員)

もちろん一連の対話会がスムーズに進んだわけではない。時には激しいやりとりもあった。たとえば部門長同士の対話の席上「人事が風土改革やると言っても、そもそも事業戦略とか経営戦略との整合性がとれているのか」と批判が人事に浴びせられた。それに対して人事が「事業戦略や経営戦略との整合性をとるところまで人事が全部お膳立てしなければ、この会社は動かないのですか。ではいつになったら経営戦略との整合性がとれるのですか」と応酬する場面もあった。

だが、対話会は総じて幹部社員に刺激と気づきを与える機会となった。ある課長はこんな感想を記している。

「こんな対話会を続けて変化が起きるのかな? と思っていたが、2割の人でも本気になって変わっていけば変わるかもしれないとちょっと希望が見えた。やれることをやるしかないな、やり続けることだなと思った」

時には痛みを伴う全社的な事業構造改革、そして成長と変化に挑む集団への変革を促す企業風土改革。10年にわたる富士ゼロックスの取り組みが今後会社にどんな変化をもたらすのか、じつに興味深い。

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