57歳までに後継者を育成し自ら転身する仕組み

06年改革では社員の階層を大きく「職能層」「リーダー役割」「管理・専門役割」の3つに区分。リーダーは管理職手前の係長職に相当し、リーダーから役割グレード制に移行する。管理役割はいわゆるライン管理職を指し、専門役割は直属の部下を持たないプロフェッショナルの専門職を意味する。管理・専門役割のグレードは1~4に分かれ、1と2が課長職、3と4が部長職に相当する。

賃金構造の見直しでは、まず従来の家族手当と住宅手当および住宅補助手当などの生活関連手当を管理・専門役割の社員には支給しないことにした。さらに12年4月からはリーダー役割の生活関連手当も廃止している。同時に給与についても従来の月給は生活給の要素が強い「本人給」と「役割給」で構成されていたが、本人給を廃止し、役割給に一本化するなど、より役割グレード制度を徹底した。

ということは役割グレードが上がらなければ、つまり昇格しなければ給与は上がらないことになる。山田常務執行役員は「従来の生活給的な給与体系ではなく、役割基軸の体系で処遇し、がんばっている人が一層報われるような仕組みにしていこうというのが制度のコンセプトの一つ」と指摘する。

また、役割給制度は職能給と違い、役割(ポスト)が変われば給与も変わる仕組みであり、期待する役割を果たせなければ当然ながら降格・降給も発生する。その後、管理職層については降格も発生する「役割任用審査制度」(任用レビュー)を導入した。

評価制度は従来の販売数値などの目標の達成度を評価する業績評価と期待する役割に基づく行動評価の大きく2つを設定。昇格では行動評価を重視し、ボーナスは業績評価が100%反映される。

行動評価の基準の策定に当たっては、同社が重視する10の価値観のうち現場のマネジャー層の議論を経て、お客様志向、チャレンジ精神、関係部門との連携、部下育成などの4項目を抽出。それに各部門が重視する行動を加えた各項目をさらにわかりやすく示した指標に基づいて評価することにした。実際の管理役割の任用レビューは、同僚・部下による多面評価と行動評価、それに業績評価も加味される。

「多面評価ではマネジメントの仕事をしっかりやっているかどうかを見る。行動評価や業績評価を見て一定の水準に達していないと思われる社員については、上司の指導を経て任用解除(降格)になります。いきなり任用解除することはなく、最初は指導する。つまりサッカーのイエローカードと同じように指導しても2年連続で悪い評価が続いた場合は退場させる仕組みです」(中里人事グループ長)

ここで試されるのはイエローカードを突きつける上司の力量である。上司にとって部下はかわいい。その部下に「これではダメだ、もっとがんばれ」と奮起を促す一方、力及ばずの部下に降格の引導を渡すことになるからだ。

降格ありの任用レビューのもう一つの狙いは若手社員の登用である。同社は社員の高齢化が進み、課長の平均昇進年齢は45歳と高い。山田常務執行役員は「高齢化が進んでマネジャーの任用が遅くなりつつあるのでもっと早くしたいという思いがある」と語る。

管理職の若返り策のもう一つの仕組みが13年4月から実施する「後進育成制度」だ。役職者が57歳になるまでに自分のポストにふさわしい後継者を育成し、自らは転身するというもの。

「57歳になったら現在のポジションから外れてもらう。ただし、最初から57歳で始めると一挙にいなくなってしまうので、当初は59歳からスタートし、一歳ずつ前倒し3年後に57歳にもっていきたい。これによって管理職の任用枠は従来の1.5倍に拡大することができる。管理職にふさわしい若い人に就いてもらい、活躍する機会を増やしていきたいと考えています」(山田常務執行役員)