別居と同居
母親の認知症は徐々に進行し、デイケアのない日に、1人でバスに乗って外出してしまうことがあり、心配した小窪さんは、平日はなるべくサービスを増やし、サービスのない週末は小窪さん自身や妹が訪問で、両親のサポートに努めた。
母親は要介護2になり、週2回の機能訓練を目的としたデイケアと、週3回の他者交流やレクリエーションを目的としたデイサービスの併用へ少しずつ変更していく。
この頃の小窪さんは、ケアマネジャーの仕事を辞めて、実家で両親と同居するか悩んでいた。これまでは通院時や週末だけ実家に来ていたが、80歳の父親が一人で認知症が進行した母親の介護をするのは、日に日に難しくなっていく。小窪さんの家から実家まで、電車とバスを乗り継いで2時間ほど。妹は持病がある上、小窪さんの家より遠方に住んでいるため、あまり頼れない。
そんな頃小窪さんは、父親が一人で母親の介護をしているときに思うようにならないと腹を立て、母親に手を上げてしまっていることに気がついた。
父親に聞くと、「暑いのにすぐに窓を閉めてしまうから叩いたった」という。小窪さんがたしなめると、「そんなこと言うても、言う事聞かへんし、偉そうに言い返してくるから腹立つわ!」と父親。
たしなめてもたしなめても、父親は我慢できずに手が出てしまう。
小窪さんは夫に相談した。夫は小窪さんの母親の認知症の進行を理解していた。しかし夫は生まれてこの方、一人暮らし経験がない。その日から小窪さんは、夫に家事を教え始めた。夫は仕事で毎晩帰りが遅いため、平日の夕食は宅食を手配することにした。
専門学校と大学進学時に家を出て一人暮らしをしている息子たちは、小窪さんたちの決断を知ると、「頑張れ〜」と声をかけてくれた。
2018年12月。小窪さん(53歳)は居宅介護支援事務所の上司に相談し、2019年3月末付で退職。
「ヘルパーの仕事を10年、ケアマネの仕事を5年してきた私自身、家族の方の介護離職がないように……と努めてきた側の自分が、介護離職することに少し不本意な気持ちを感じながらも、両親との同居を決めました」
4月。実家で両親との同居を開始すると、小窪さんは実家から通えるサービス付高齢者住宅でケアマネの仕事に就いた。
「両親のために、夫を残して実家へ帰ると言うと、『優しいね』『いい人だね』とよく言われましたが、ちょっと嫌でした。夫が自分の親の介護のために、妻を残して実家へ帰る場合はきっと、『なぜ奥さんは行かないの?』って思われるはずです。男女平等ではないですよね?」
夫は人生初の一人暮らしが不安なのか、『毎日が楽しい「孤独」入門』という雑誌を買ってきていた。(以下、後編へ続く)