自分が買いたいプロダクトの成功確率は高い
とはいえ、プロダクトアウトかカスタマーインのどちらかにかかわらず、自分の感覚に代表性はないわけですが、自分がお客さまの1人として「買いたい」と思うプロダクトのほうが成功する確率は高いでしょう。なぜかというと、「自分と同じように感じるのは、どんな人だろう?」というのが想像しやすいからです。「自分がお客さまである」ということで、潜在的なお客さまの便益と独自性を理解しやすくなります。
一方、「自分は別に買いたいとまったく思わないけれど、Aさんが買いたいと思うもの」はわかりにくいですよね。だから「N1分析」をして、そのためにAさんから「どうして買いたくなったか」という話を聞いて、「なんで、どこをいいと思って」ということを掘り下げていくわけです。それで、「ああなるほど」と理解すれば、Aさんと同じような人を探しに行けるのです。
「AD軟膏」の便益と独自性は何か
自分がまったく買いたいと思わなくても、買う人がいるプロダクトは世の中にたくさんあります。実際、私はこれまで自分が顧客ではないプロダクトのマーケティングに携わったことも、もちろんあります。むしろ、ほとんどがそうかもしれません。ロート製薬に在籍していたときに、「AD軟膏」という体のかゆみを感じる方向けの医薬部外品の皮膚用のクリームがありました。ただ、私にはそのような経験がないので、この商品のお客さまではないわけです。
そこで、必ず毎年買っている人がいたので、その方々のお話を聞いて「なんで、それを買うか」ということを調べていくと、「お風呂に入ったあとや、お布団に入ってしばらくして体が温まるとかゆくなって、眠れなくなることがあったが、AD軟膏を塗っておけば、ぐっすり眠れる」という話が聞けました。ほかのお客さまにも、このエピソードを話すと、「そうそう、そうなんです」と強い共感が出てきました。結果として、「お布団に入るとかゆくなるけど、AD軟膏を塗ると、すやすやぐっすり」みたいなコミュニケーションアイデア(プロダクトの便益と独自性をお客さまに伝え、購買行動を起こしてもらうための訴求のアイデア)につながるのです。
このようなコミュニケーションアイデアで、新規のお客さまもAD軟膏を購入され、これまでのお客さまも納得して購入されるようになったのです。どういう人が便益を感じて独自性をどこに感じているかが見えると、あとは、そのような方々に価値を見いだしていただけるようにするわけです。
さまざまなプロダクトのマーケティングに携わるなか、自分が対象となるお客さまと重ならないプロダクトのマーケティングに関わることも多々あります。いや、BtoBなどでは、ほとんどです。そのようなときこそ、そのプロダクトに便益と独自性を感じている人やクライアントを見つけだして、しっかり相手の話に耳を傾けることが大事なのです。