インタビューから浮かび上がった共通項

ここで「インタビューと仮説」の重要性について、あるBtoBの企業のコンサルティング事例を紹介します。以前、ビルやマンションに使う配管パイプのメーカーから相談を受けたことがありました。通常、配管パイプは鉄や銅製のため重量があるので建築時の作業効率が悪いのですが、その会社は軽い素材で加工しやすい配管パイプを開発したのです。販売先は、建築の孫請けや下請け企業でした。

この配管パイプの主な便益は、軽量で扱いやすく、工事負担が少なく、現場の作業担当者の負担も軽減できることです。しかし価格が高く、当初の期待よりも受注につながっておりませんでした。そこで着目したのが、ビルやマンションの建設に関わる価値の流れです。孫請けの発注元の先には、さらにデベロッパーなどの施主がいます。そして、さらに上流にはビルやマンションの購入者(オーナー)がいます。

コンサルティングの依頼主である配管パイプの会社の人にインタビューしながら上流にいる施主やオーナーがもっとも気にする便益を深掘りすると、「ビルやマンションに数十年後も高い資産価値が維持されること」という共通項が浮かび上がったのです。となると、ビルやマンションの価値の維持に大切なポイントの1つに「設備」がある、という仮説が生まれました。設備の老朽化が進むと、価値が下がるからです。

大事なポイントは「お客さまは誰か」

さらに、最も劣化しやすいのが「配管」だということもわかりました。「配管の耐久性の向上」が、お金の流れの最上流であるビルやマンションの購入者の便益となるならば、施主は多少値が張っても、この配管パイプを選ぶはずだと考えました。

西口一希『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)
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そこで、この仮説にもとづいて、孫請けではなく、施主にこの配管パイプを提案したのです。すると、施主からは非常に好意的な反応があり、受注につながりました。建築現場の「軽い素材で加工しやすく、工事負担が少ない」という便益と独自性から見いだす価値だけでなく、より上流に位置する施主に「耐久性」という便益と独自性を提案することで、それが価値として見いだされたわけです。

私は最初に配管の会社からご相談いただいた時点では、建築・建設業界に詳しくありませんでした。依頼主にヒアリングを重ねて、便益の連鎖と価値の流れを掘り下げたことで、このようなコミュニケーションアイデアにたどり着いたのです。ここでも大事なポイントは「お客さまは誰か」ということです。お客さまが何を求めていて、さらにその先に何があり、誰がいるのかを考え続ければ、どんな業界でも、「WHOとWHATの組み合わせ」が見えてくるのです。

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