10年、実田はHUGEがメキシカンの店「ムーチョ」を丸の内にオープンするという情報をキャッチする。そして荻野は、実田がかけてくる猛烈なプレッシャーに必死で耐えながら、アサヒが扱っているテキーラ「クエルボ」を「ムーチョ」に入れることに成功する。その顛末が涙ぐましい。荻野が言う。

「新川社長がムーチョの開店前にメキシコを視察なさったとき、ヤルダグラスという細長いグラスをえらく気に入られたそうで、あれをなんとか調達できないかとおっしゃったのです」

荻野の動きは早かった。関連企業のネットワークを駆使してヤルダグラスの輸入に道筋をつけた。費用はむろんHUGEが支払ったが、新川に大きくアピールする「お役立ち」だった。新川が言う。

アサヒビール社長
小路明善

「荻野さんのスピード感がすばらしい。そして、めちゃくちゃに熱い。そりゃ嬉しいですよね。だって、僕らの夢を実現してくれるんですから」

新川がスカイツリーへの出店を決断し、ビールをアサヒにすると確約するまでには、これ以外にも無数のエピソードがある。荻野によれば、ヤルダグラスの件など「小さなジャブ」のひとつにすぎない。

そして迎えた5月22日。東京スカイツリー、オープンの日である。

「初日にみんなで一緒に飲んだビールはうまかったねぇ。実田君なんて、子供みたいに目をウルウルさせてね」(新川)

「そのために仕事をしてきたんですもん。新川さんと抱擁しましたね」(実田)

アサヒは実田らの奮闘で新川の「リゴレット」をはじめ、スカイツリーの飲食店の実に7割の取り扱いを押さえることに成功した。その波及効果は絶大なものがあると実田は言う。だからこそ、

そこまでやるのか!

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(的野弘路=写真)
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