さて、このストーリにはもうひとりの主人公がいる。市場開発支社の荻野元治である。荻野はスカイツリー担当ではなく、HUGEの担当だった。しかしアサヒはHUGEとまったく縁がなかったのは先述の通り。HUGEに白羽の矢が立った瞬間、荻野へのプレッシャーが突如として高まった。実田が言う。
「死んだ気になってHUGEに顔を売れ、店舗を回れと荻野に言いましたね」
実田は、荻野の新人研修の指導役だった。気心の知れた荻野にクロージングまでのシナリオを書かせ、進捗を尋ねる電話をかけまくった。荻野が言う。
「まだ一滴も買ってもらったことがないのに、ワインでもスピリッツでも何でもいいから、とにかくHUGEさんに何か入れろと実田さんが毎日のように……」