楽天にとって不運だったのは「菅首相誕生」

最も楽天にとって「不運」だったのは、総務大臣経験者の菅義偉氏が首相になったことだろう。菅氏は官房長官時代の2018年8月に「携帯料金は今よりも4割程度引き下げる余地がある」と発言、話題になった。同年11月発売の月刊誌に手記を寄せ、「携帯大手の利益率は20%前後に達しており、電気やガスのようなインフラ企業と比較しても利益率が突出して高い。そもそも電波は公共物であり、国民の共有財産。諸外国と比べて格安で電波を用いている企業が過度な利益に走るのは不健全だ」と、大手携帯会社の儲け過ぎを批判したのだ。まさに楽天が携帯電話事業に参入しようとしていたタイミングだった。

寡占状態にある市場に、新規参入を許すことによって競争を加速させ、料金を引き下げていく。これは真っ当な競争政策と言える。当初、楽天が事業参入した際も、使い放題で月額2980円という価格で始めたが、これは3大キャリアの利用料の半額以下の料金プランだった。つまり、当時の価格状況の中では楽天のプランならば十分に戦えると見られていたのだ。

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国民にはありがたい「官製値下げ」が災いに

ところが、「4割引き下げ」が持論の菅氏が首相になったことで状況が一変する。首相の強い要請を受ける形で、2020年12月にドコモが格安プラン「ahamo」を発表、auが「povo」、ソフトバンクが「LINEMO」で追随することになり、楽天と同水準まで値下げした格安プランが揃うことになった。政治家の介入による、いわば「官製値下げ」が一気に起きたわけだ。結果的に菅首相の施策が楽天から優位性を奪う結果となったのだ。

総務省の家計調査によると、この「官製値下げ」の効果は鮮明に表れた。2人以上世帯の月平均消費支出で「通信」を見ると、リーマンショック後の2011年の1万1928円から2019年の1万3599円まで8年連続で上昇していたものが、2020年から3年連続の減少となり、2022年には1万2598円になった。2022年は電気代が22.9%も一気に上昇するなど物価上昇が鮮明になったが、その中で通信料は5.2%も減った。家計消費で見る限り、菅首相の言った4割下げには及ばないものの、ピークからの下落率は7.4%に達した。

この国民からすれば、ありがたい「官製値下げ」が、楽天にとっては災いになったと言っていいだろう。