バンコクの街中で財布から現金を抜き取られる

私は2023年2月初旬から5月初旬まで日本を離れ、タイやラオスで生活した。その際、バンコクの街中でカネをスラれてしまったのである。「自分は海外慣れしているから大丈夫」という慢心があったのは間違いない。

手口としては古典的なものだ。「あなたの国に近々行く予定なので、紙幣を見せてもらえないか」などと紳士風の男あたりが声をかけてくる。そこで1000円札を財布から出すと「もっと高額の紙幣もあるだろ。ほら、私はこのように金持ちだ」と相手は100ドル札の束を見せて、「大丈夫、取るわけではないから安心しろ」という雰囲気を伝えてくる(実際は、束の一番上のみが本物の100ドル札なのだろう)。

たとえばそこで、財布のなかにあった1万円札を渡したとしよう。その際、仮に3万円あったとしたら、1万円をサッと抜き取っていくのだ。ほとんどの場合、それに気づかぬまま財布に札を戻し、「バーイ」などとにこやかに別れることになる。そうして後になってから、「おかしいな。確か財布のなかに3万円あったはず」「もしかして、あのとき!」とようやく気づく……そんな手口だ。手品師のごとき技で高額紙幣を盗んでいくのだから、たまったものではない。

巧みな手口にまんまとダマされた

私の場合、「さっき両替したから日本円は持っていない」と正直に答えたところ、「本当か? 財布を見せてくれ」と促され、ご丁寧にも財布を出してしまった。すると、相手の男はいきなり財布から札を抜き取り、こちらが唖然としているうちに「確かにないな」とカネを戻された。結果的には、このとき財布のなかにあった1000バーツ札(およそ3900円)15枚のうち、7枚を抜かれてしまった。

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この男は“ドバイの金持ち”という設定で、隣には妻だという美しい女性と2人の女の子がいた。女性は私の連れを「目がきれいだ」と大いに褒めそやし、「写真を撮らせてほしい」などと盛り上げる。要するに注意を分散させ、私の注意も男ではなくそちらに向けさせたのだ。「ドバイの富豪」「幸せそうな家族連れ」「親日家」という3つがそろったため、完全にダマされてしまった。もっとも「お前、いまカネを抜き取ってないか?」と指摘しても、巧みな指技でどこかに隠し、「証拠がない」で泣き寝入りせざるを得なかったに違いない。しかも厄介なことに、1000バーツ札と100バーツ札の色が似ているので、受け取った際には札が減ったことに気がつかなかった。