教科書にクリトリスが描かれない国

【村瀬】田嶋さん、実はいまでも高校の保健体育の教科書には、女性の外性器の図解があるのにクリトリスは描かれていないんですよ。

【田嶋】えっ、それはなぜですか? 男性のペニスは描いてあるんですよね。

【村瀬】もちろん当然のごとく、描いてあります。

【田嶋】女性のクリトリスは解剖学的に男性のペニスに相当するのに、おかしな話ですね。

【村瀬】たとえばオランダでは中学校の生物の教科書に、クリトリスがちゃんと正面から描いてあって、男女ともそれを見て学びます。腟よりも性的に敏感な器官だから、マスターベーション……私は「セルフプレジャー」と言っていますが、そのときにここに触れて刺激する女性が多い、という説明もあるんですよ。

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自分の身体なのに、見ても触ってもいけない

【田嶋】それ、とても大事なことです! クリトリスの存在を無視されているということは、日本でのFGM(Female Genital Mutilation)と言っていいですね。アフリカや中東のほか、いくつかの国にいまも残る、女性のクリトリスを切除してしまう慣習のことです。

なぜそんな酷いことをするのかというと、クリトリスで快感を知ったら女性は自由を望み、逃げたり浮気したりするかもしれない、と男性が思い込んでいるからですよ。女性が快感を得ることを否定しているんです。女性のセックスを子産みのためだけのものにします。

たしかに思い返してみると、私たちが子どものころは自分の性器って不可侵の場所でした。女の子は、自分の身体なのに見ちゃいけないし、触っちゃいけないとされていた。あそこは自分のためでなく、だれかほかの人のためにあるような感じだったことはたしかです。

当時は、まだ「処女」とか「貞淑」とかいう言葉が生きていた時代ですから。処女も貞淑も家の血筋を守るためのものですよね。私たちの世代ではクリトリスのあるなしにかかわらずその図解も見たことなかったし、大人になってもどんな構造なのかよくわかっていないという女性は、多かったんじゃないですか。