自分から売り込まず、顧客のアイデアを待つ

さて、ウェブサイトを立ち上げ、「工業用ストロー」「医療用ストロー」というカテゴリーを作ったシバセ工業。具体的にどんなアイデアを考えて売り込みを仕掛けたのだろうか。

何もしなかった。顧客が持ち込んでくるアイデアを商品化すればいい、という姿勢に徹していたからだ。

磯田は「こちらからアイデアを考えて売り込みに行くと、十中八九うまくいきません。断られると心が折れるんですよね」と話す。

具体的にどのようにしてアイデアが持ち込まれるのか。3代目社長は次のように説明する。

「薄肉パイプを探している人がいるとしましょう。日本中のパイプメーカーやチューブメーカーに当たっても『そんなの作れない』と一蹴されます。そんなときに「ストローなら使えるかも」と考えた人が「ストロー」で検索してシバセ工業にたどり着く――こんな展開になればいいんです」

撮影=プレジデントオンライン編集部
シバセ工業が生み出した「工業用・医療用ストロー」の製品例

「オープンイノベーション」の実例

実例は枚挙にいとまがない。例えば、工業用ではドリルカバー。ドリルの口径に合わせて製作されたストローで、刃の保護やけがの防止、色別の分類に役に立つ。医療用では「腹腔鏡手術用のガーゼ挿入ガイド」。手術の際に薄肉パイプに仕込んだガーゼを腹部に開けた小さな穴から挿入できる。

最近では、ドライバーの飲酒管理に使われるアルコール検知器機用ストローの販売が伸びている。運輸業界の「検知器のマウスピースをストローにしたい」との要望がきっかけに始まった。またアルコールチェックは飲酒事故をきっかけに、運輸業界だけでなく車を営業車として使用するほとんどの業界で義務付けられるようになった。

ストローアートもある。ストローを素材にして動物や花などの作品を制作するクラフト用ストローのことだ。大きな売り上げをもたらさないものの、愛好家がリンクを張ってくれればSEO(検索エンジン最適化)対策につながる。

撮影=プレジデントオンライン編集部
ストローアート

磯田に言わせれば、顧客発アイデアの商品化は「オープンイノベーション」だ。外部のアイデアを積極的に取り込んでイノベーションを起こすという手法である。シバセ工業ではウェブサイト開設後、「こんなストローはないか?」といった問い合わせが相次ぐようになった。

何らかの問題を抱え、それをどうにかして解決したいと考える潜在顧客がストローに望みを託し、シバセ工業に協力を求めるようになったのだ。