「行動」を叱って人を叱るなかれ

ウィルPMインターナショナル代表
石田 淳

日本の行動科学(分析)マネジメントの第一人者。行動科学マネジメント研究所所長も兼務。近著に『3日で営業組織が劇的に変わる 行動科学マネジメント』『行動科学で人生を変える』など。

例えば、目標をクリアできない目標未達社員には、どうアプローチするべきか。ウィルPMインターナショナル代表の石田淳氏は、行動科学マネジメントの立場から叱ることの意味を次のように定義づけている。

「本来仕事とは、定めた目標に近づくための行動の積み重ねです。その際に褒めるというのは、目標達成のため望むべき行動を増やすための行為で、反対に叱るとは、目標達成のためにすべきではない行動を減らす行為を指します」

行動科学マネジメントでは、やるべきなのにやっていない行動を「不足行動」、やるべきでないのにやっている行動を「過剰行動」と呼んでいる。人の行動原理をシンプルに捉える行動科学マネジメントでは、現状を変えたいときの選択肢は、行動を「増やす」か「減らす」かのみ。つまり、不足行動を増やし、過剰行動を減らすだけでいいという。

「これを、褒めると叱るに当てはめると、褒めるとは不足行動を促し、叱るとは過剰行動を抑制することを指します。ここで押さえておくべきポイントは、不足行動は誘惑に弱いということ。例えば、営業マンが勤務中に喫茶店で居眠りをするのは、不足行動を邪魔する『ライバル行動』であり『過剰行動』です。よって、人は褒めるだけでは目標に到達しづらく、適度に叱ることで過剰行動を抑える必要があるのです。両者をバランスよく使うことで、目標達成までのスピードは速くなるといっていいでしょう」

ここで注意したいのは、叱る際には行動にフォーカスし、人格を否定しないこと。そうでなくては部下も腑に落ちない。人格はさておき、どういった行動が目標までの道筋を阻害するのかについて指導する必要があるという。

「ダメなマネジャーは、感情をぶつけるだけで、改善点を挙げません。30代以上の人は子どものころから『人を見て自分で身につける』よう教育されてきたので、それでもよかったかもしれませんが、30歳以下の人は一から教えてもらって身につけてきた世代。マニュアルやタスクを与えて、それを達成するために、褒める、叱るを繰り返して達成感を得てもらいつつ、目標に到達するように育てていくことが効果的だと思います」

ただし、例外として感情的になっていいケースもある。それは、上司と部下の間に信頼関係が形成されているときだ。この場合「これだけ親身になってくれている」と部下の心情もプラスのほうに働くが、両者の間に信頼関係がない場合は溝を深めるだけ。最悪の場合は、会社を辞めてしまったり、うつに陥るケースもあるという。よって基本的には感情的にならず、過剰行動について戒めていくというのが好ましいようだ。

※すべて雑誌掲載当時

(梅原ひでひこ=撮影 AFLO=写真)
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