「アクションシーンはすべて、(マスクで)顔が見えません。ちょっとしたひらめきでした。(アメリカ人俳優たちで)アメリカパートを撮影して、制作費用がかさむアクションシーンと編集でつなぎ、マスク着用シーンの音声については吹き替えを施せば、アメリカ版を制作できます。コレだと思いました」

作品のベースとして、当時放送中の最新シリーズ『恐竜戦隊ジュウレンジャー』が選ばれた。時を越えて復活した悪の組織と立ち向かうため、長年の眠りから覚めたヒーローが集結する物語だ。

80年代後半からの恐竜ブームに乗り、日本でも成功を収めている。日本版は成人を中心に高校生2人を加えたキャスティングだったが、アメリカ版は高校生たちのグループを主役に据えた。

だが、放送局の反応は軒並み芳しくなかったようだ。唯一検討すると答えた米FOXネットワークスは、まずはパイロット版をテスト会場で上映し、高評価を得ることを条件とした。審査員役は、最大の視聴者であり、そして残酷なまでに素直な感想を漏らす、ほかならぬ子供たちだ。

22分間のパイロット版を上映したテスト当日の様子を、サバン氏はこう語る。

「ダイヤルテストをしました。右に回せば好き、左に回せば好きじゃない。番組を流すと、ダイヤルは右に回りました。そして22分間、ずっとそのままだったんです」

アメリカ人の熱狂ぶりに出演者が驚く

こうして全米ネットワークでの放送が決まった。

番組名は、恐竜と掛けた「ジュウレンジャー」では通じない。人気アニメの『ティーンエイジミュータント・ニンジャタートルズ』に英語の子音数を揃え、『マイティーモーフィン・パワーレンジャー』とした。モーフィン(Morphin)は造語で、ロボの変型を表す。

米大手エンタメ誌のバラエティは、1993年の初回放送以来、「瞬く間にポップカルチャーの社会現象になった」と振り返る。それまでアメリカのアクション番組にはなかったチームでの戦闘要素や、変型合体する巨大ロボが受けたようだ。

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ピンクレンジャーを演じたエイミー・ジョー・ジョンソン氏は2017年、バラエティ誌への寄稿を通じ、放送当時のアメリカの熱狂を振り返っている。

放送開始から1カ月、ハワイで初めての生出演イベントが開催され、ジョンソン氏たち戦隊メンバーはそれに臨んだ。当時はネットもなく、自分たちの人気ぶりを事前に知ることはなかったという。

「まあ言うまでもなく、警護もなしにホノルル国際空港に到着したのですが……そこでは1万人を超える人たちが、私たちを一目見ようと待っていたんです!」

本当に死ぬほどレイ(花飾り)をかけられましたね、と氏は当時を懐かしむ。