ハリー博士は4万8000人を対象に調査を実施、その結果、死亡率がもっとも低くなるのは、ヘモグロビンA1cが7.5%の時であるという結果を得ました。この数値を比較基準としたとき、11.0%まで上昇すると死亡率が79%上昇することがわかりましたが、一方で、6.4%まで下げてしまっても死亡率が52%上昇することが判明したのです。
のちに日本では、厳格にヘモグロビンA1cをコントロールしすぎると重症低血糖を起こしやすくなり、これにより心不全などの合併症リスクが高まるようだと分析され、やみくもに数値を下げればいいのではなく、コントロールの質が重要なのだという認識につながっていきました。
「正常値絶対主義」がいかに危ういものであるかを思い知ることになった調査結果だったのです。
しかしいまだに、糖尿病の権威として君臨しているような医学部の先生方のなかには、正常値になるまでインスリンを打たせ続けるような治療をしている人も少なくないようです。
正常値の「基準」を上げることに反対する医師
かつて、血圧の基準や血糖値の正常値(基準値)をもう少し上げても大丈夫であるということが、人間ドックを受けた人たちの予後調査から見えてきたと人間ドック学会が発表した時も、循環器学会などがその発表をデタラメ扱いして基準を上げることに反対したということがありました。
日本の医師の世界というのは、きちんとしたデータを持っている人よりも肩書のほうが勝ってしまうというおかしな世界なのです。人間ドックの医者が言っていることが、大学医学部の教授の言い分よりも正しいなどということがあってはいけないというわけです。
「正常値絶対主義」に凝り固まって人間を見ない医師、患者の死亡率を上げてしまうかもしれないというエビデンスに対し、謙虚になろうともしない医師たちが一日でも早く引退していくことを願うばかりです。
「放置した健康管理をしない方が健康」というエビデンス
もうひとつ、興味深い調査研究があります。「フィンランド症候群」に関するものですが、この名前を出そうものならば、日本の多くの医者は「デタラメ」だと怒り狂うことでしょう。自分たちのレゾンデートルが脅かされかねないからです。
しかし、デタラメだと主張するのであればまず、自分たちも同規模の調査研究を日本で行うべきだと思います。
この調査研究は、1974年から1989年までの15年間にわたってフィンランドの保険局が行った大規模調査のことです。循環器系が弱く血圧やコレステロール値などが高めの40〜45歳の男性1200人を対象に、きちんと健康管理をする介入群600人と、健康管理に何も介入しない放置群600人に分けて、15年かけて健康状態の追跡調査を行いました。