※本稿は、和田秀樹『70歳からは大学病院に行ってはいけない』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
9割以上の医者が陥る「正常値絶対主義」という問題点
先の記事では、大学病院の医師たちの多くが、臓器別診療という専門分化の弊害により、「臓器は診れども人は見ず」といった診察になりがちで、トータルでみると高齢患者のリスクを高めるような治療・投薬に陥りやすいことを指摘しました。
なぜそのような「患者のリスクを高めるような治療や投薬」が平然と行われているのか。その背後にあるのが、9割以上の医者が陥っている「正常値絶対主義」とでもいうべき現代医療の問題です。
とかく、私たちは何かというと「正常値(基準値)」以下、「正常値」以上というように、自分の健康状態のバロメーターを正常値で判断しようとします。多くの人がせっせと受けている健康診断もそうですね。
基準値が常に示されて、それよりも高かったり低かったりするとC判定やD判定がついたりします。血圧が高いとか、コレステロールが高いとなると、医師から運動や食事についての厳しい指導をされたり、薬を処方されたりします。
あるいは、厚生労働省が2007年に義務付けて翌2008年からスタートしたのがメタボ健診ですが、このメタボ健診において肥満度の尺度としてたびたび持ち出されるのがBMIという数値です。体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったもので、世界保健機関(WHO)の基準では「18.5〜25未満」に収まるように指導されます。
しかし、世界中のさまざまな統計においても、実はBMIが基準値の25を少し超えたあたりが一番長生きだという結果が出ています。
2006年、アメリカで29年にわたって国民の健康栄養を追跡した調査結果が発表されました。これによると、いちばん長生きなのはBMI25〜29.9の「太り気味」の人たちで、一方、18.5未満の「痩せ型」の死亡率はその2.5倍も高くなっていました。
日本でも、厚労省の補助金を受けたある研究結果によると、40歳の時点での平均余命がもっとも長かったのは、男女ともにBMI25〜30未満の「太り気味の男性が41.6年、女性が48.1年でした。
一方、もっとも余命が短かったのは18.5未満で、こちらは男性が34.5年、女性が41.8年。痩せ型よりも太めの人の方が、平均で7年ほど長生きするという結果が出たのです。
そうなると、そもそものBMI「18.5〜25未満」という基準値にどのような根拠があるのか、ということになってきます。メタボ健診とは真逆になりますが、ややぽっちゃりめのほうが、よほど長生きできるという結果が出ているのですから。
数値のことばかり指摘してくる医者に、振り回されてはいけないのです。