動物は機械ではない、農場は工場ではない

多量の乳量を生産するため、牛を改良したり濃厚飼料を多投したりするうえ、糞尿で湿っているコンクリート床に立たされたり運動もできない(7割を超える酪農家がパドックや放牧地に放していない)など劣悪な飼育環境から病気が多く(日本装削蹄協会の調査(5996頭調査)は、36%の牛に(跛行の原因となる「蹄病」があるとしている)、酪農家が早々と廃牛にしてしまうからだ。

つまり、牛の生理に反した穀物給与と、土ではなく固いコンクリートの上で生活し運動もできないなどの劣悪な生活環境が相まって、牛は蹄病や跛行などの病気にかかりやすく、短期間に搾るだけ搾らされたあげく、すぐに屠畜される。これは牛をわれわれと同じ動物とは考えていない証しである。

先に紹介した情報提供者が伝えたかったことは、“動物は機械ではない、農場は工場ではない、農業は工業ではない”という、酪農界が忘れたシンプルなファクツなのだ。

本来の酪農の姿である「山地酪農」

現在酪農の主流となっている「舎飼」の酪農を、ある酪農指導者は「変態酪農」と呼んだ。しかし、日本にも、これとは異なる「放牧」型の酪農がある。それを紹介しよう。

それが「山地酪農」と呼ばれる酪農である。

写真提供=なかほら牧場
24時間365日、自然放牧をしている山地酪農「なかほら牧場」の様子。牛たちはその日の好きな場所で野シバなどの野草をはむ。

山地とは、山林で牛を年中昼夜放牧するという意味である。牛は等高線に沿って爪で山を削りながら、自由に草を食べ歩く。春から秋は野シバを食べ、冬場はサイレージを食べる。濃厚飼料はおやつ程度に与えるだけで、ほとんど食べさせない。

牛舎で飼われる場合、こまめに洗浄しなければ、牛が大量に排出する糞が牛体にも牛舎にもこびりついて取れなくなる。大量の糞尿の処理に酪農家は苦慮し、これに大きな設備投資が必要となる(もっとも農林水産省からの手厚い補助があるので、農家は一部の負担で済む)。山地酪農の場合は、山の土が糞尿を自然に分解して、堆肥にしてくれる。それを栄養にして野シバが生え、牛のエサになる。

牛も出産しないと乳を出さない。一般には、人工授精して妊娠・出産させる。しかし、山地酪農では、牛は自然交配を行い、林の中で2、3月に出産し、子牛は5月に母牛から離れる。通常の酪農家の場合は、栄養価に富んだ「初乳」を生まれたばかりの子に飲ませるだけで、その後すぐ、子牛を母牛から引き離す。母牛は牛乳を生産しなければならないからである。

引き離された子牛は脱脂粉乳を飲まされる。山地酪農のように、2~3カ月も母乳を飲めないのである。この子牛に飲ませる脱脂粉乳も飼料穀物と同じく輸入物である。輸入のほうが安いからである。酪農家は人が食べる乳製品の輸入には反対するが、家畜のエサとなる乳製品は輸入する。

山地酪農の最大の長所は、エサとしての野シバの利用、糞尿の土地への還元・堆肥化など、大地に根差した本来の酪農の姿を実践していることだろう。

写真提供=なかほら牧場
自然交配・自然分娩・生後2カ月の母乳哺育。母仔ともに愛情豊かで元気に育つ。
写真提供=なかほら牧場
母牛に甘える仔牛。仔牛は母牛に顔をなめてほしくて、顔を近づけてくる。牛は愛情深い動物だ。