なぜ乳脂率は「3.5%」でなければいけないのか

1987年に生乳取引の基準が乳脂率3.2%から3.5%に改定された。放牧ではその基準を満たすことができないという指摘がある。

生乳から水分を除くと、乳脂肪分と(たんぱく質などの)無脂乳固形分になる。前者からバターが、後者から脱脂粉乳ができる。

1987年当時は、今と異なり、バターが過剰で脱脂粉乳が不足気味だった。脱脂粉乳に合わせて生乳生産を行うと、バターが余る。しかも、乳業メーカーは、平均すれば3.5%の乳脂率があった生乳からバター分を抜き取って3.2%の牛乳として販売していた。この抜き取った分もバターとして販売したので、さらにバターが過剰になった。

そこで、乳業界は一計を案じた。バターが余るなら、乳脂率3.5%の牛乳として消費者に飲ませればよい。これは功を奏した。バターの供給は減少し、過剰は解消されたのである。1987年の生乳取引基準改定は、バターの過剰対策だった。おいしさを感じさせる脂肪分が上がったので、一時的だが、牛乳の消費も増加した。

生乳取引の基準はもっと低くてもいいはず

ところが、今は、バターと脱脂粉乳の需給関係が逆転している。2000年に汚染された脱脂粉乳を使った雪印の集団食中毒事件が発生して以来、脱脂粉乳の需要が減少し、余り始めた。これに合わせて生乳を生産すると、今度はバターが足りなくなる。2014年のバター不足は、根本的には、この需給関係が引き起こしたものである。

それなら、今度は生乳取引基準を乳脂率3.2%に戻せばよい。バターの生産は増え、バター不足が起きることはない。

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そもそも、乳脂率3.5%が消費者ニーズに合致しているかどうかわからない。

近年、乳脂肪分1.5%から2.5%までの成分調整牛乳と呼ばれる牛乳の生産・消費が拡大した。これは生乳からバター分を抜き取った牛乳である。その理由として、味の面では、乳脂肪分が低いため、飲み口があっさりしているうえ、バターや脱脂粉乳などの乳製品から作られる加工乳と違って、牛乳の風味に近いことが挙げられる。消費者の嗜好が低脂肪牛乳に移ったのだ。アメリカでも量的には、低脂肪牛乳は通常の牛乳と同じくらい売られている。次に、価格が、牛乳に比べて安いことである。これが消費者の低価格志向にマッチした。

生乳取引の基準は乳脂率3.2%よりもさらに低くてもよい。2%でもよい。放牧型酪農も対応できるし、抜き取る分が増えるのでバター不足を起さなくて済む。