記者が在職中のことを退社後に書いた本は無数にある

この是非をめぐって、メディア関係者の間で議論が巻き起こっています。

法律論だけでいえば、就業規則に定められているので、その運用の問題ということになるでしょう。

しかし、この問題が大きな議論を巻き起こしているのは、これまで朝日新聞もふくめ新聞記者が在職中のことを退社してから書いた本が無数にあるからです。

最近では、やはり朝日新聞記者だった鮫島浩さんの『朝日新聞政治部』(講談社)という同社編集部の内幕を赤裸々に暴露した手記がベストセラーになっています。しかし、朝日新聞のサイトを見ても、鮫島さんの本への抗議文は載っていません。

「なぜ『悪党』だけが、槍玉にあがるのか」

不思議に思って、本を買って読んでみました。

第8章に「朝日新聞の事なかれ主義」という見出しで、ガーシーのインタビューが没にされた経緯や、その理由をあげて、会社を批判していますが、『朝日新聞政治部』をはじめとする他の朝日OBが書いていることに比べれば、正直、暴露そのものはそれほど強烈ではない感じです。

書いた記事も、集めた情報も会社のものと明言

朝日新聞の抗議文で特に驚いたのは、「新聞などに掲載されたか未掲載かを問わず」という部分です。未掲載原稿について著作権を主張している例はあまり見たことがありません。

本を読んでわかったのですが、「未掲載」というのは、上司の判断でボツになったガーシーのインタビューなどを伊藤氏が新聞にのせるはずだった記事の形式で掲載していることを指しているのでしょう。

しかし、ガーシーはこの本の出版当時、国会議員であり、逮捕されるかどうか、国会議員から除名するかどうかは、国会で議論されるほど大きな公共性をもつ問題でした。当の新聞社も報じています。

開会した国会を欠席したNHK党のガーシー(東谷義和)議員の氏名標=2023年1月23日、東京都千代田区

その当事者のインタビューを国民に公開することは、大きな公益性を持ち、まさに「正当な理由」にあたるのではないか、と感じました。

朝日新聞が、抗議文などでは明らかにしていない事情があるのでしょうか。

抗議文でとても気になったのは、朝日新聞が、記者が書いた記事はもちろん、集めた情報もすべて会社のものである、会社の判断なしには、辞めてからも書くことを許さないと明言していることです。