きっかけは元朝日新聞ドバイ支局長が出した一冊の本

「退職した記者が前職で取材したことを書いてはいけないのか」という議論がメディア関係者の間でもりあがっています。

きっかけになったのは、元朝日新聞ドバイ支局長の伊藤喜之氏が出した『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』(講談社)という一冊の本です。

前参院議員で国際指名手配中のガーシーこと東谷義和容疑者。そのガーシーに、2022年4月、ドバイ支局長時代に取材をした伊藤氏は、そのインタビューの掲載を巡って朝日新聞と対立し、同年8月に同社を退職します。その後も独自で取材を続け、この本を書き上げました。

知り合いの出版関係者から「あの本、かなり売れているようですよ」と聞いていたので、気になってはいました。しかし、ガーシーという人物にはまったく興味がないので手にとってはいませんでした。

ところが、朝日新聞が『悪党』の著者である伊藤氏と版元の講談社に抗議をしたというので、驚きました。

「在職中に取材したことは辞めても書くな」という言い分

3月28日に朝日新聞が自社サイトに、「取材情報などの無断利用に抗議しました」と投稿したのです。その言い分は朝日のサイトをみると下記のとおりです。

ジャーナリスト宣言。朝日新聞(写真=MIKI Yoshihito/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)
ジャーナリスト宣言。朝日新聞(写真=MIKI Yoshihito/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

「退職者が在職時に職務として執筆した記事などの著作物は、就業規則により、新聞などに掲載されたか未掲載かを問わず、本社に著作権が帰属する職務著作物となり、無断利用は認めていません。

また、本件書籍の記述には、伊藤氏が在職中に取材した情報が多数含まれます。これらの情報は、本社との雇用契約における守秘義務の対象です。就業規則により、本社従業員は業務上知り得た秘密を、在職中はもとより、退職後といえども正当な理由なく他に漏らしてはならないと定められています。」

整理すると、朝日新聞はこう主張しています。

①新聞に掲載されたか、掲載されていないかに関係なく、記者が書いた原稿の著作権が会社にある。
②在職中に取材したことは退職後も「正当な理由なく」、漏らしてはいけない。

要するに、在職中に取材したことは辞めても書くなということです。