日本の医者の9割はヤブ医者

【和田】たとえば夏場になって血圧が下がってきたら、「じゃあ、薬はちょっと減らそうか」。また冬場になって上がってきたら、「そろそろ増やしてみようか」と言う医者であれば、かなりまともだと思うんです。でも、そんな話はほとんど聞いたことがない。

【鳥集】検査で基準値を超えていたらとにかく薬で下げて、あとはほったらかしという感じですよね。

【和田】そうです。言いにくい話だけど、日本はヤブ医者率が9割くらいじゃないかと思ってしまいます。

【鳥集】高齢者をきちんと診てきた医者ならば、今、和田さんが話したことに賛同すると思うんです。薬漬けはやめよう。患者さんの病状だけでなく、生活状況や価値観まで踏まえて、その人がその人らしく最期まで生きられるようにサポートしよう――。そういう流れに、世の中も医療も向かっているものだと思っていました。ところがこのコロナで、実はぜんぜん違ったんだなと痛感しました。

【和田】僕もね、『老人を殺すな!』という本を1996年に書いたのですが、どうしてここまで変われないのかと呆れています。

日本の医学は宗教化している

【鳥集】それは医学教育のせいなんでしょうか。

【和田】そうだと思います。よく、患者さんに「医者がこんなに薬を出すのって、金儲けのためですよね」と聞かれるのですが、違うんです。院外処方だから病院やクリニックは儲からないし、薬を減らしたほうが減薬加算がついて儲かる仕組みになっている。それにもかかわらず、一向に状況が変わらない元凶は、教育以外の何ものでもないと思います。

【鳥集】具体的に、医学教育のどんなところが悪いのでしょう。

【和田】ACCORD試験(注)に対する医学界の反応などを見ていて感じるのは、たとえ臨床的知見が変わっても、医者は自分たちの言うことを変えられないということ。つまり、医学が宗教化しているということです。僕はよく、「最初から答えがわかっているのが宗教。試してみないとわからないのが科学」と言っているのですが、日本の教授クラスの医者って、最初から答えがわかっていると思い込んでいるんです。

(注)ACCORD試験……米国国立心肺血液研究所(NHLBI)が、心血管リスクがとくに高い2型糖尿病の患者を対象に、ヘモグロビンA1cを目標値の6%未満まで厳しく下げる「厳格治療群」と、穏やかな7%台を目標とする「標準治療群」とで治療効果を比較する臨床試験を実施し、2008年に中間報告を発表。厳格治療群で死亡率がおよそ2割も高いことがわかり、試験は途中で中止となった。ACCORD試験の予想外の結果は、その後の糖尿病治療のあり方に大きな一石を投じることとなった。

【鳥集】なるほど。

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