ポリファーマシー(多剤服用)の問題点とは何か。長尾クリニック院長の長尾和宏さんは「日本は別々の診療科で同じ作用の薬を処方され、患者が気づかずに用量の倍の量を飲んでいることも珍しくない。これは認知機能が低下した高齢患者が薬を溜め込む原因にもなる」という。ジャーナリストの鳥集徹さんとの対談を紹介する――。

※本稿は、鳥集徹編著『医者が飲まない薬 誰も言えなかった「真実」』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

数種類の薬を手に持っている医師
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気づかずに用量の2倍の降圧薬を飲んで転倒

【鳥集】そもそもの話なのですが、たくさん薬を飲むとどんな有害なことがあるのか、具体的な事例を教えていただけますか。

【長尾】まず、血圧の薬を複数箇所でもらっていることがよくあります。患者さんの中には「これが血圧の薬だ」と知らない人もいます。また、内科で血圧の薬を処方されているのに、整形外科でも「私、血圧が高いんです」と言ったがために、善意で血圧の薬を処方され、結果的に2倍量飲んでいる人もいる。それで、やっぱり血圧が下がりすぎている。それで転倒したという人もいましたね。

それから、「口が渇く」という訴えも多いです。年を取ると唾液の分泌量が減るのですが、抗コリン薬(注)をいろいろな診療科でもらっている。具体的には、消化器系の薬、過活動性膀胱の薬、鼻水を止める薬、かゆみ止めといった薬です。

唾液が出にくくなる自己免疫疾患であるシェーグレン症候群かなと思って調べてみても、違う。「なんでやろ、なんでやろ」といろいろな病院で調べて、口が渇く副作用のある薬を飲んでいることに気づくまでに、すごく時間がかかる。医者によっては人工唾液とか唾液分泌促進薬を出して、ポリファーマシーをさらに上書きしていくわけです。

(注)抗コリン薬……神経伝達物質であるアセチルコリンがアセチルコリン受容体と結合することを阻害(抗コリン作用)し、副交感神経の働きを抑える薬剤。パーキンソン病治療薬、消化性潰瘍治療薬、吸入気管支拡張薬、排尿障害治療薬、催眠・鎮静薬、抗うつ薬、散瞳薬など、さまざまな疾患の治療薬に用いられる。副作用として、口渇、便秘、頻脈、動悸、不整脈、記憶障害、せん妄、眼圧上昇といったさまざまな症状を認める。前立腺肥大症、緑内障、重症筋無力症では、抗コリン薬の使用により症状が悪化するおそれがあるため禁忌となる(ナース専科「看護用語集」より)。