出された薬の半分は無駄になっている

【長尾】それから、こんなこともありました。訪問診療でとある患者さんの家に行ってみたら、私が出した薬が1年分ぐらい、山のように溜まっていたんです。飲んでいないんですよ。それらに加えてよそのクリニックの薬も溜まっていて、思わず「えーっ!」って声が出ました。やっぱり、患者さんの家には1回は行かないとダメなんです。実は、7年前に亡くなった私の母親も、実家に帰ってみたら同じ状況でした。お薬が好きだったので、3年分ぐらいの薬が、「ゴミ屋敷」みたいに放置されていました。

【鳥集】3年前に亡くなった私の父もそうでした。母親から「こんな薬を飲んでた」って見せられたのですが、けっこうな量の薬が残っていました。

【長尾】そうなんですよ。昔は「服薬コンプライアンス」と言いましたが、今は「アドヒアランス」という難しい言葉を使いますよね。要するに服薬率。8割飲んだら優等生です。日本人の平均が、確か4割か5割だったはずです。大まかに言って、患者さんは出された薬の半分くらいしか飲まないものなんです。

1日3回と言われても、毎日3回も飲みません。とくに高齢者は飲み忘れが多い。やはり、無駄が多すぎるんです。薬を余らせているご本人も、こう言うんです。「お医者さんに言うと気を悪くすると思って、言わへんかった」って。そうやって、日本全国で余らせている薬の金額は、ものすごいことになっているでしょう。

それに、一番驚いたのがインスリン。ある糖尿病患者さんの家の冷蔵庫を開けたところ、自己注射用のインスリンが100本ぐらい出てきたんです。

腹にインスリン注射を打つ人
写真=iStock.com/imyskin
※写真はイメージです

認知症患者の家から大量のインスリン注射器が…

【鳥集】100本もですか。

【長尾】そうです。ある大学病院の糖尿病科の一番偉い先生にかかっていたのに、血糖コントロールが悪かった。なぜならインスリンを打っていないから。認知症で一人暮らしだから、自己注射のやり方がわからなかったんです。でも、大学病院が好きだから、そこへ通っている。

それで診察を受けて、「血糖値が下がらないから、インスリンを増やしましょう」と言われて、どんどんインスリンが溜まっていった。「大事なもんやから、捨てたらあかん」ということで、冷蔵庫に保管していたんです。でも、もう入りきらんわけですね。それこそ、何十万円分ぐらい溜まっていた。「このインスリン、もって帰って売ったろうかな」と思ったけど、それもできない(笑)。