首相補佐官が「俺と総理の二人で決める話」と恫喝

礒崎陽輔氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

安倍政権は常々、政権に批判的な民放の報道番組に不快感を募らせていた。衆院選を控えた14年11月には、安倍首相がTBSの街頭インタビューが偏っていると批判。自民党は在京キー局に「報道の公正中立、公正の確保」を求める「お願い」を送り、番組に注文をつけた。

今回明らかになった内部文書に記されている礒崎氏と総務省のやりとりは、そうした時期に重なる。

礒崎氏は、総務省の安藤友裕情報流通行政局長ら担当者を何度も呼び出し、「この件は俺と(安倍)総理が二人で決める話」と断じ、「俺の顔をつぶすようなことになれば、ただじゃあ済まないぞ。首が飛ぶぞ」と恫喝どうかつし、解釈変更を迫った。

首相官邸の権力を振りかざして畑違いの放送行政に口を出したわけだが、そこには、ボスの安倍首相の胸の内を忖度そんたくして点数を稼ごうとした下心が透けて見える。

総務官僚は放送法の解釈変更に抵抗したようだが…

政治的公平の新解釈が示されてから8年も経った時点で当時の経緯を記した文書が公になった背景には、安倍晋三首相が暗殺され、礒崎氏は落選し、当時の総務省の幹部職員も退官、さまざまな意味で重しが外れたというタイミングがあるだろう。

総務省出身で放送行政に携わった経験をもつ旧郵政官僚の小西議員は、「総務省の職員から提供を受けた」と文書の入手ルートを明らかにした。

当の文書は、当時の桜井俊総務審議官、福岡徹官房長ら省幹部をはじめ、原課の放送政策課などで広く共有されており、多くの総務官僚が目にすることができた。しかも、「行政文書」として残されているため、総務省OBの小西氏の手元に、どこから流れても不思議はない。

内部文書をつぶさにみると、解釈変更の影響を懸念した総務官僚は少なくなく、礒崎氏の横暴に必死に抵抗した跡がみてとれる。

礒崎氏の説明に前向きな反応を示した安倍首相

中でも、総務省出身で女性初の首相秘書官(メディア担当)となった山田真貴子氏の対応は当を得ていた。

後輩の安藤局長から報告を受けると、即座に「放送法の根幹に関わる話」と指摘し、「政府がこんなことをしてどうするつもりなのか。どこのメディアも萎縮する、言論弾圧ではないか」と影響の大きさを危惧した。

さらに、「民放を攻める形になっているが、結果的に官邸に『ブーメラン』として返ってくる」と冷静に判断、政治的公平の解釈変更はマイナス面が大きいとの認識を示した。

そのうえで、礒崎氏について「官邸内で影響力はない。総務省として、ここまで丁寧にお付き合いする必要があるのか」と疑問を投げかけ、「今回の話は、変なヤクザに絡まれたって話」と切って捨てた。