狩野家のタブー

筆者は、家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つがそろうと考えている。

狩野家の家庭のタブーは、狩野さんと妻が結婚する以前にすでに発生していた。狩野さんが複数の女性と付き合っているにもかかわらず、狩野さんから離れようとしなかった妻。妻の母親ががんで死にそうだと知り、結婚を口にした狩野さん。何度も踏みとどまれるタイミングがありながらも、お互いにスッキリしないまま結婚に踏みきった。ここに短絡的思考が見られる。

さらに疑問なのは、そんな2人が結婚をしようとしていたのに、親も友達も、誰も止めなかったということだ。狩野さんにとって、妻は“キープちゃん”だった。そんな相手と結婚を決めたと聞いて、「やめたほうがいい」と言った人は誰もいなかったのだろうか。

妻のほうも、女遊びが激しい男性との結婚話など、親身に考えてくれる友達がいれば踏みとどまりそうなものだし、親は反対しなかったのだろうか。それを振り切って結婚したのかもしれないが、筆者は狩野さんから聞いた妻の言動から、もしかしたら妻には、親友と呼べる人がいなかったのかもしれないと思った。そういう意味で、狩野さん夫婦は孤立していたように感じる。

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結婚後も同様に、2人の話を親身に聞いて、的確なアドバイスをくれる相手がいたら、子どもをもうける前に離婚しただろうし、2人目など考えない。ましてや、6000万円以上もする注文住宅など建てなかっただろう。こうしたことからも、「短絡的思考」や「孤立」が感じられる。

聞けば、狩野さんは、自分の結婚生活を周囲に話せなかったのは、「妻のことが恥ずかしかったから」だという。狩野さんは、自分の妻を「恥ずかしい」と感じていたのだ。

「私は妻が大嫌いですし、妻の考え方が全く理解できません。もっとも向こうにしても同じでしょうけどね。でも妻の人格をとやかく言うつもりはありません。職場では、いい教師、いい同僚、いい上司、いい部下なのかもしれません。彼女を好きになった、あるいは好きになる男性もいることでしょう。ただ単に私と価値観を共有できないだけの話です。価値観が違う人間なんていくらでもいるとは思いますが、そんな人間が夫婦になってしまったのが不幸だったというしかないですね」

全くその通りだろう。

複数の異性と付き合えば、それぞれにかける時間も感情も分散される。だからお互いを深く知らずに結婚してしまったことが、家庭のタブーの始まりだったのかもしれない。

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