虐待をする親の中には、 児童相談所に通報されても虐待を否定する人がいる。児相の元職員で、 親子関係再構築プログラムを提供する認定NPO法人チャイルド・ リソース・センター代表理事の宮口智恵さんは「 最初から子どもを傷つけようと思っている親はおらず、むしろ日常的な孤独感から子どもに頼っている人が多い」という―― 。
※本稿は、宮口智恵『虐待したことを否定する親たち』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
なぜ、虐待は起こるのか
最初から、子どもを傷つけようと思う親はいません。
長年親子への支援を行ってきて、私たちはこのことを確信しています。実際に児童相談所に「虐待」で子どもを保護された親たちの多くは、怖い人でも危険な人でもありません。中には実際に私自身が「恐怖」を感じるような場面もありましたが、その人もきっと最初から、怖い人ではなかったはずです。
困難が重なった時、そして、「安心な人」とつながることができかった時、虐待は起こります。子どもを傷つけてしまう親の状態はもはや尋常ではありません。尋常でない危機的な状態をストップさせるために、子どもの保護が必要になります。
しかし、児相として介入し、傷ついた子どもを一時保護した後、親との面接の中で、「私は虐待していません」と自身の行為を全く認めないような発言をされたら、職員には強い負の感情が湧き上がります。「なんてひどい親だ」と。
本稿では「私は虐待していません」と言う親が子どもを保護されるという体験について、考えていきたいと思います。その時、親はどのような心理状態でその言葉を発するのか。そして、親子に何が起こっているのかということを、一つの架空の親子の事例(※)を通して推測していきます。
※宮口氏がこれまでに出会った事例を組み合わせた作成した架空事例