ガーシー氏はさらに打つ手を間違える。いったん帰国すると約束したのに巨大地震の被災地を視察すると言ってトルコへ飛び、結局は約束を反故にして帰国しなかった。「除名」に踏み切る大義名分を与野党に与えてしまったのだ。
前言を二転三転させる姿勢は「海外からスキャンダルを暴く」という政治信条への信頼を根底から揺るがし、「そもそも売名の出馬だったのでは?」との疑念を膨らませ、ガーシー擁護論は急速に萎んだ。ガーシー氏はSNSなどで「(立花党首から)帰国しないでいいと言われた」と主張しているが、立花党首とすればガーシー氏はもはや用済みだろう。彼の政治的挑戦はあっけなく幕引きした。政治敗戦である。
「除名」には慎重な議論が必要だ
ガーシー氏が稚拙な政治闘争の結果責任を負うのは当然だ。だが国会議員が除名されるという厳然たる事実は、彼個人の資質とは切り離して慎重に是非を見極める必要がある。
岸田内閣の支持率が低迷しても野党への期待感は高まらず、維新や国民民主が与党に接近し、立憲民主もその背中を追う今の国会。大政翼賛体制・全体主義の足音が迫るなかでガーシー問題は勃発した。国会の9割を超える自民、公明、立憲、維新、国民に加え、共産まで同調して「議場での陳謝」の決定は下った。
主要政党が結託して少数者を国会から弾き出す事実は重い。戦前の全体主義は反戦論を蹴散らし、この国を破滅へ導いた。
この懸念を明確に主張しているのはれいわ新選組だけである。「今回のことをきっかけに近い将来、国会の大きな政党間の恣意的な運用で、気に入らない議員や党を処分、排除など行える入り口となることを危惧する」との声明を発表し、「議場での陳謝」の採決を棄権した。
最も問われるべきは、自民党と手を結んで懲罰を主導した野党第1党の立憲の姿勢であろう。二大政党が結託すると国会は一挙に少数者排除の空気に覆われる。野党第1党が政権与党に同調する場合は、より一層の慎重を期さなければならないはずだ。
懲罰を主導した野党第1党の体たらく
ところが民主党政権の崩壊後、この国の野党第1党は国政選挙で8連敗して「負け癖」が染み込み、政権与党にすり寄るようになった。立憲の泉健太代表は「批判ばかり」と批判されるのを恐れて「提案型野党」を掲げ、「次の選挙」での政権交代は難しいと公言している。
野田佳彦元首相は安倍国葬に参列したうえで国会追悼演説を担い、安倍元首相との接点を「売り」に復権をめざす姿勢がありありだ。政権与党と激しく対峙するよりも、一致できる接点を必死に探し求めて与野党連携の機運を醸成したい気分がこの党を覆っている。