ありとあらゆる民間企業の技術が狙われている

例えば、中国政府が発表している外商投資奨励産業目録(外国投資家による投資の奨励および誘致に関連する特定の分野、地区等が明記されたリスト)に目を通すと、そこには農産物や文化教育、さらにはキャタピラ式クレーンやセダンのホイールベアリング等といった具体的な部品名まで500以上が詳細に記載されており、これらは中国にとって、投資を奨励したい=関心が高いと見て取れる。

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また、中には「直径が2mを超え、深度が30mを超える大口径回旋式掘削機、直径が1.2mを超える管推進機装置、曳引えいいん力が300トンを超える非開削地下パイプ敷設プラント設備の製造、地下連続壁工法掘削機の製造」などといった記載も見受けられる。この場合、関連する技術を部分的にまたは間接的にでも持つ日本企業は相当数あるだろう。私がスパイであれば、もちろん狙いに行く。

スパイ活動の対象になるのは最先端の技術とは限らない。活動を仕掛ける側の国にとっては、一世代前の技術が思わぬ価値を持つ場合もあるし、彼らの貿易相手国に売れる技術も最先端のものばかりではない。要するに、どんな技術・情報をターゲットにするかはスパイが決めるのだ。さらに、スパイは“本丸”に近づくため、必要であれば周辺者にも接近する。

日本のファンドに中国共産党関係者指揮下の人物が

技術情報だけではなく、政治工作や情報工作のために、一般人・企業に接近する場合も当然ある。2022年9月には、中国国家安全部の工作員が、米ツイッター社で働いていたことを米連邦捜査局(FBI)が突き止め、FBIが同社に警告していたと報じられている(ロイター 2022年9月14日)。このように、工作を行うためであれば、有名企業への就職も手段として当然である。

私の民間での経験であるが、日本のファンドに中国共産党の人物の指揮命令下にいる人物が役員を務めていた事案も調査している。この事案では、対象者がM&Aを通じて日本企業の技術の獲得を画策していたと想定されたが、恐ろしいのは、その目的を果たすために非常に優秀な人物を日本のファンドに送り込んでいたことだ(ただし、この事案において、違法行為は全くなかった)。