ロシアや中国の「スパイ」は、どのように接近してくるのか。元警視庁公安部捜査官/日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠さんは「道を尋ねてきて、『母校が同じですね』と話を合わせてくる。親近感を抱いて、会食をともにすれば、どんどん入り込まれてしまう」という――。(後編/全2回)
仮面をつけた男
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スパイ側の視点から工作活動を考えてみる

前回はスパイのターゲットという視点からの解説を行った。今回の記事では、スパイ(=攻撃者)の目線での解説を試みる。サイバーセキュリティーにおけるペネトレーションテスト(侵入テスト)と同様、攻撃者の目線に立つと、攻撃者の思考が理解できるからだ。

前回の記事でも触れた、ロシア通商代表部職員が半導体関連企業の社員らに道を尋ねるふりをして話しかけ、「飲みに行きませんか」などと誘っていた件(読売新聞オンライン 2022年7月28日)を改めて振り返ってみよう。恐らく読者の皆さまの大多数が、「道を尋ねられて、なぜ不用意に飲みに行くんだ。普通は行かないだろう」と考えるだろう。しかし現実に、この手法は日本におけるスパイ活動の入り口としては決して少なくないのである。

なぜだまされてしまうのか。そのメカニズムをスパイの目線で解説しよう。

某国のスパイZ氏が、本国より以下の下命を受けたとする。

「日本では、次世代半導体の短TAT(受注から製品供給までの所要時間が短い)量産基盤体制の構築に向け、複数企業で新会社を立ち上げる予定である。同社の設立動向と機微技術情報を広く収集せよ」