政治家の疑惑が報じられても、裁かれたのは秘書だけ
金丸ヤミ献金事件の後、政治資金規正法が改正されて、「政治家本人への寄附」が禁止され、「一年以下の禁錮」の罰則の対象となった。
しかし、政治家本人が直接受領したヤミ献金については、違法な個人宛ての献金か、あるいは団体・政党支部宛ての献金かが特定できないと、政治資金規正法違反としての犯罪事実も特定できず、適用する罰則も特定できないという、「政治資金規正法の大穴」は解消されておらず、その後も、政治家個人が「ヤミ献金」で処罰された例はほとんどない。
二〇〇九年三月、民主党小沢一郎代表の公設第一秘書が、収支報告書に記載された「表」の献金に関する政治資金規正法違反(他人名義の寄附)の容疑で東京地検特捜部に逮捕された際に、西松建設の社長が、自民党の有力議員側に「ヤミ献金」をしていたこと、そのうちの一部は議員に直接手渡されていたという「年間五〇〇万円の裏金供与疑惑」が報じられた。しかし、別件の政治資金規正法違反で秘書が略式起訴されただけで、議員本人への「ヤミ献金」は刑事事件としての立件には至らなかった。
「ザル法」に潜むもう一つの問題
また、吉川貴盛元農水大臣の事件でも、アキタフーズ会長から、農水大臣在任中に五〇〇万円を受領したほかに、大臣在任中以外の期間にも合計一三〇〇万円の現金を受領していた事実が報じられた。これも、政治家本人が直接受領した「ヤミ献金」のはずだが、刑事事件として立件され、起訴されたのは、大臣在任中の五〇〇万円の収賄だけであり、在任中以外の期間のものは刑事立件すらされていない。
それは、政治家側に直接裏金による政治献金が渡った場合に、政治資金規正法違反で立件・処罰することができないという、「政治資金規正法の大穴」によるものなのである。
もう一つの問題は、政治資金についての収入・支出の透明化に関して、政治資金規正法上は、「会計帳簿の作成・備え付け」と「七日以内の明細書の作成・提出」が義務付けられ、政治資金処理の迅速性が求められているのに、ルールが形骸化していることである。
政治資金規正法は、政治団体・政党等の会計責任者等に、各年分の政治資金収支報告書の作成・提出を義務付けているが、それに関して、収支報告書とほぼ同一の記載事項について、会計帳簿の作成・備え付けを会計責任者等に義務付けるとともに、「政治団体の代表者若しくは会計責任者と意思を通じて当該政治団体のために寄附を受け、又は支出をした者」に対して、会計責任者への明細書の提出を義務付けている。