政治家が裏金を受け取った疑惑が報じられても、刑事事件になることは極めて少ない。一体なぜなのか。弁護士の郷原信郎さんは「献金に関する法律では政治資金規正法があるが、これで刑事責任を問えるケースはほぼない。『ザル法』どころか真ん中に“大穴”が開いている」という――。

※本稿は、郷原信郎『“歪んだ法”に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)の第2章「『日本の政治』がダメな本当の理由」の一部を再編集したものです。

国会議事堂
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なぜ国会議員の「ヤミ献金」は立件されないのか

「政治とカネ」の重大問題が発生する度に、政治家が世の中の批判を受け、政治家や政党が中心になって議員立法で「その場しのぎ」的に、改正を繰り返してきたのが政治資金規正法だ。そのため、罰則は相当重い(最大で「禁錮きんこ五年以下」)が、実際に政治家に同法の罰則を適用して処罰することは容易ではない。それが「ザル法」と言われてきた所以ゆえんである。

しかし、実は、政治資金規正法には、単に「ザル法」だというだけでなく、ザルの真ん中に“大穴”が開いているという、それを知ると誰もが驚愕きょうがくする現実がある。

「政治とカネ」の典型例が、政治家が、業者等から直接「ヤミ献金」を受け取る事例である。それは「水戸黄門」のドラマで、悪代官が悪徳商人から、「越後屋、おぬしも悪よのう」などと言いながら「小判」の入った菓子折りを受け取るシーンを連想させるものであり、まさに政治家の腐敗の象徴である。

しかし、国会議員の政治家の場合、「ヤミ献金」を贈収賄罪に問うのは容易ではない。そこでは、国会議員の職務権限との関係が問題となる。国会議員の法律上の権限は、国会での質問・評決、国政調査権の行使等に限られている。

本来なら政治資金規正法で処罰すべきだが…

与党議員の場合、いわゆる族議員としての政治的権力を背景に、各省庁や自治体等に何らかの口利きをすることが多いが、その場合、「ヤミ献金」のやり取りがあっても、職務権限に関連しているとは言えず、贈収賄罪の適用は困難だ。「あっせん利得処罰法」という法律もあるが、「権限に基づく影響力を行使して」という要件がハードルとなり、国会議員に適用された例はない。

だからこそ政治資金規正法という法律があり、政治家が業者から直接現金で受領する「ヤミ献金」こそ、政治資金規正法の罰則で重く処罰されるのが当然と思われるであろう。しかし、実際には、そういう「ヤミ献金」のほとんどは、政治資金規正法の罰則の適用対象とはならない。

政治資金規正法は、政治団体や政党の会計責任者等に、政治資金収支報告書への記載等の政治資金の処理・公開に関する義務を課すことを中心としている。献金の授受についても、その「授受」そのものが犯罪なのではない。献金を受領しながら政治資金収支報告書に記載しないこと、つまり、そのヤミ献金受領の事実を記載しない収支報告書を作成・提出する行為が不記載罪・虚偽記入罪等の犯罪とされ、処罰の対象とされるのが一般的だ。